9 運命の糸とコマンド
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その日の夜は満月だった。
ベランダへの扉が開き、こちらに誰か来る気配で目を覚ました。
その人物?の周りは何か高貴な空気が漂っている気がする。
「運命の者よ」
「え?俺?」
「そなたの運命の糸は何本もあり、綺麗に束ねられ絡み合い凄く美しく光っておる」
「運命…の糸?」
「普通の人間の運命の糸は1本じゃ。そなたは特別な魂なのだろうな。精霊の加護も、その恩恵」
「…なるほど?」
「コマンド、と唱えてみよ」
「あ、はい。コマンド!」
すると目の前にRPGであるあるな、ステータス画面の様な物が出現した。
「そなたにしか見えぬ、運命の1部だ」
「書いてある事は少ないな。えっと女神力…???。魔力…???。妖力…???。魔法力…???。霊力…???え?何これ意味分かんないんだけど。チートってやつ?」
これが噂の、異世界転生のチートスキルか!でも…これ絶対にトラブルに巻き込まれるよな。
「その内に、目覚めが起こるであろう。運命にどう立ち回るか、楽しみにしておるぞ」
スッとその姿が消えた。
俺さ、死んで転生?みたいなのしたら10歳くらいの女子でさ。
これ以上のトラブルに見舞われるぞ的な予言までされてさ。
精霊の加護とか、何の慰めにもならない気がしてきた。
帰りたい。現世界に戻りたい。俺が俺であった場所に帰りたい。
色々あって考える暇とか無かったけど、異世界の俺って過酷すぎね?
美少女じゃなくていい。加護も要らない。普通に生きたい。俺悪い事してないよ、な?
コマンドの中に、アイテムと言う場所があった。中には何もありませんと表示されている。
試しに枕をアイテム欄に向けたら、手元からスッと消えた。アイテム-高級な枕となった。
枕を触って使うを押すと、目の前に枕が戻ってきた。…これは地味に便利だな。軽装で出かけられ……いや、引きこもろう!
チート能力なんか使いようが無いくらいに、部屋に引きこもろう。異世界初のニートになるんだ!
俺の目標が決まった瞬間だった。