生徒会室にて
登場人物
樋笠大地 御堂藤学園高等部一年A組
栗原耀太 一年A組 身長百九十超の巨漢
小原梨花 一年A組 ボランティア部レクリエーション部所属
幡野沙織 三年A組 生徒会長
松前理世 三年A組 生徒会役員
山縣杏菜 三年A組 新聞部部長
東矢泉月 一年A組 生徒会役員
星川漣 一年E組 高等部入学生
実は生徒会に呼び出されるのは職員室に呼び出されるより怖い。
俺の学年の担任団は、多くが二十代の女性教師で美人揃いだったから呼び出されるのは楽しみでもあった。
しかし生徒会はそうではない。いかに美人といえど怖くて緊張する対象はいる。特にその代の生徒会長によって生徒会のイメージはガラリと変わるのだ。
先代の生徒会長はビックリするほど色気のある美人で、まるでハーレムのように美男子の副会長ら生徒会役員を侍らせていた。そして自由な校風をうたって校則の緩和に励み女子の制服を公式行事以外はあれこれアレンジできるようにまでしたのだ。
その恩恵にあずかるように梨花は新学期二日目から早速チェック柄のスカートにして紺のハイソックスを履いている。セーラー服のリボンも毎日色を変えている。正装は藤色だ。
ところが現在の生徒会長は真逆の堅物だった。
どうも生徒会長は一年ごとに振り子が触れるように硬軟変わるようだ。俺たちはせっかく緩和された校則が再びきつく縛られるものにならないかとヒヤヒヤしているが、今のところそれに反対する勢力も大きく、厳しいものにはなっていない。
その堅物の生徒会長がいる生徒会室に呼び出されたのだ。いかに俺たちがS組と呼ばれ高一以下の四学年で人気があったとしても硬派の先輩たちは意に介さない。
「緊張して漏らしそうだよ」
耀太と二人だけなら「チビりそうだよ」と言っただろうが梨花がいるから少し表現を変える。咄嗟にそのくらいのことはできるようになっていた。
「アハ、あたしもだよ」と言えるのが梨花だった。
純香なら「お花を摘みに」すら頬を赤らめて言うだろう。
「トイレに寄っていくか?」耀太はマジレスする奴だった。
生徒会室は部室が並ぶエリアの最奥にあった。
一つ手前に新聞部の部室がある。これもまた厄介な部だったがそれはさておき、俺たちは扉の前に立ち深呼吸してからノックした。そしておもむろに扉を開ける。
いつも思うが生徒会室の扉をノックして返事が来たためしはなかった。
「高等部一年A組樋笠、栗原、小原の三名どす」
代表して俺が名乗ったのだが盛大にやらかしてしまった。「どす」とは。
梨花が黙ったまま震えている。笑いをこらえているのだろうが、笑いとは解放しないとおさまらないものだ。
耀太が梨花の前に立ち梨花を巨体で隠した。ナイス、耀太。
会議室の長机がやたら大きく感じる。両側にズラリと生徒が腰かけていた。恐らくは何か会議をしていたと思われる。
はりつめた空気だけが流れている。片付け忘れたように弁当箱がいくつかあったのはご愛敬か。
遠く真正面の議長席に生徒会長は腰かけていた。
前髪ぱっつんの黒髪ストレート。髪は非公式スタイルに肩や背中に下ろしていた。睫毛が長く伏せ目にしているからとても綺麗だ。
色白で鼻筋が通っていて、唇は小さい。いつ見てもクレオパトラみたいな美貌だ。本来可愛い系なのに滅多に笑わないから神秘的だ。とにかくオーラが違う。
窓の外から射し込む光が後光になっていた。彼女が生徒会長の幡野沙織だった。
「座りなさい」と言ったのは生徒会長ではなく、すぐ隣にいたきつそうな美人だ。生徒会長と同じく三年A組の松前とかいったかな。
生徒会は会長が代替えすると副会長以下役員も大きく変わるのが通例だが彼女は先代の時から役員を続けている。
自由奔放な先代生徒会長の下で生真面目で融通の利かない役員をしていたはずだ。会長が替わっても腰巾着を続けるあたりよほど生徒会が好きなのだろう。知らんけど。
それから俺たちは簡単にお説教のようなことを聞かされた。
学校帰りに制服姿のまま飲食店に寄ることは校則で禁止されている。新聞部のSNSにその姿がアップされたからいずれ教職員の知るところになるだろう。その前に自己申告して始末書を書きなさい、と松前が会長に代わって言った。
幡野会長は伏せ目で黙って聞いていた。俺たちもおとなしくしている。
俺は聴きながら周囲を観察した。真面目な話でもそれが展開の読める単純な話なら退屈なのだ。結論も決まっているし。
それで俺は生徒会室にいる面々を見た。
生徒会役員に混じって部外者が何人かいた。新聞部だ。三人いた。それが三つ子みたいに揃って三つ編み眼鏡だったので俺は噴きそうになった。
この学園ではありふれた正装スタイルなのだがこれだけ揃っていると可笑しくなる。よく見るとみな違う顔をしているのだが、パッと見ると三つ子だった。
「以上生徒会からの忠告です」
松前が締めくくると、新聞部の一人が口を開いた。「ごめんね、新装開店のお店の情報提供があったものだからつい載せてしまったの」
は? 狙ってやっているように見えますが。俺はその人にジト目を向けた。新聞部部長山縣さんはよく知る人物だ。
「一年のS組メンバーが満足そうな顔して店から出てきたら宣伝効果もあるでしょう? あなたたちは有名人で影響力もあるのだから」
それが目的なのだと俺も理解する。俺たちは新聞部による店の紹介・宣伝に良いように使われたわけだ。
「情報提供者はどなたです」俺は訊いてしまっていた。
「守秘義務があるから」教えてくれないらしい。
そいつもラーメン屋で食べたに違いない。私服なら問題ないし。あの時知っている顔はなかったから上級生かもしれなかった。
出る杭は打たれる。俺たちS組は一部の上級生たちにとっては目障りな存在だった。何かと貶めようとする行為は常にある。
その時、反対側の下手から声が上がった。
「彼らも反省しているようですし、この件はこれでよろしいでしょうか」
それは俺たち一年A組のクラスメイトにして生徒会役員をしている東矢泉月だった。
ついこの間まで中等部の生徒会長をしていた、S組十傑にして四天王の一人。いや、この二年間総合成績の一位にずっと君臨し続ける絶対的完全無欠の美少女。一年半もしたら高等部でも生徒会長になっている女子だった。
泉月がいるから俺たちを庇ってもらえるとは期待していなかった。そういう奴ではない。幡野会長と同様堅物なのだ。
ただ学内では完璧に見えても泉月に残念なところがいくつかあるのを俺はよく知っている。これはS組十傑としてずっと同じグループにいたからこそわかることだ。
「彼らにはよく言い聞かせますので、これでお開きということでよろしいでしょうか?」
泉月は言った。昼休みも残り少ない。恐らく泉月は早く会議を終わらせて仮眠をとりたいのだと俺は思った。
泉月は自宅で三時間しか睡眠時間をとっておらず学校で昼休みに三十分ほど仮眠をとって繋いでいる。
中等部時代中等部の生徒会室によく出入りしていた俺は泉月の生態も知っていた。睡眠の邪魔をしてはいけないな。
「私も別に固いことばかり言いたいわけではありません」それまで静かにしていた幡野会長が初めて口を開いた。「制服姿のまま飲食店に寄ることを禁じているのは生徒のトラブルを避けるためです。女子校時代から我が校の生徒は街中で声をかけられたりする事例が多くあります。今回も暗くなってからの飲食店の出入り。男子のみならず女子もいましたよね? 食事を終えた頃には遅くなっていたでしょう。小原さん、あなたは一人でおうちまで帰ったのですか?」
「いえ、樋笠君に家まで送ってもらいました」梨花が答えた。送っておいて良かったあ。
「樋笠君と二人で帰ったのですね?」
「はい」
「それはそれで別の問題が出そうですが、まあ良いでしょう。とにかく遅くならないよう寄り道せずに真っ直ぐ帰りなさい」
「あなたたち、まさか……」松前さんが横槍を入れた。「こ、交際とかしていませんよね?」
そんな風に発想するのかよ、やっぱり。
「いいえ、そんなのあり得ませんよお」梨花はとびきりの笑顔で答えた。
ないのかい! 俺はツッコミを入れそうになって思いとどまった。うっかり口にすると話が面倒になる。
「樋笠君はお笑い担当ですし……」
いやお前もそうだろ。隣で耀太が静かに笑い転げていた。
「ではこれで結構です。下がってください」幡野会長が言った。
俺たちは頭を下げて立ち上がった。
その時、泉月の隣に腰かけていた男が俺に向かって右手を握りしめてグッジョブをした。「ブラボー」と俺にだけ聞こえるように言っている。
ずっと気になっていたのだが会議中いちいち「エクセレント」だの「ファンタスティック」だの茶々を入れていた奴だ。
間違える筈もない、新入生勧誘の際に純香の手にキスをして生徒会に連行されていった奴だ。確か星川とか言ったな。そいつがここにいる。あんなことをしたのに生徒会に入ったのか? 何で入れる。
隣の泉月が嫌そうな顔をしたように見えた。
不定期更新ですが、続きます。