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S組のひと ーヒガサ君は蚊帳の中ー  作者: 柏栖一/Hakusuya
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S組のヤバい美少年

登場人物

 樋笠大地 御堂藤学園高等部一年A組

 栗原耀太 一年A組 身長百九十超の巨漢

 高原和泉 一年A組 女子学級委員

 小原梨花 一年A組 ボランティア部レクリエーション部所属

 渋谷恭平 一年A組 テニス部の美少年

 前薗純香 一年A組 学園のプリンセス ボランティア部部長

 新学期最初の週があっという間に過ぎていく。

 俺たちは高校一年生。新たに高校生活を始めたはずだが制服を新調しただけで中等部の頃と何ら変わりはなかった。

 A組のメンツが二十名も前クラスと同じな上に残り十六名についても一度はA組になったことのある奴ばかりで新鮮味がなかったことが大きい。まあ楽しい面々ではあったが。

 後ろの席の巨漢耀太(ようた)はおとなしい方だが遠慮なく俺の両腋(りょうわき)にくすぐりを入れるような奴で、その度に俺は大袈裟に反応して人目を引いた。「やめろお!」とか、時には「いやーん」と言って女子の笑いを誘う。

 もともと俺は廊下を独りで歩くときも視線を感じたら突然立ち止まって一芸を披露していたから、そういうキャラだと思われていた。

 最近は常に何かやらないといけないような強迫観念におかされていたから自然とできていた。

 そんなことをしても軽蔑の目をあまり向けられないのは俺がS組十傑の一人であり、そこそこイケメンでお笑い担当だと認知されていたからだ。これで成績が悪かったら目も当てられないだろう。

 ただ、自分の席で騒がしくするのは良くないとさすがに思った。

 俺が奇声をあげるとすぐ前の席の真鶴(まなづる)さんがビクッと肩を震わせて振り返る。

「ごめん、ごめん」と俺は両手を合わせる。

 右隣の璃乃(りの)に「バカもの!」と罵られる。左隣の梨花(りか)が笑うというのが定番になってしまった。

 この楽しい日常を捨てたくないから俺は今のポジションにしがみついているのだ。

 あとはもっとラブコメ要素があれば良いなと常々思う。

 しかしそれが思うようにならないのはいくつもの要因があるからだった。

 第一に、俺たちの学校は生徒同士の恋愛が校則で禁止されていた。違反しても退学や停学などの処分はないものの教員による生徒指導を何度も受けた挙げ句反省文を書かされるのだ。

 そうなったのはこの学園が女子校から共学になって数年の間にいくつか不祥事があったからだと聞かされている。妊娠する女子生徒が何人か続けて出たようだ。

 そうしたケースは公にされることなくひそかに処理されたというが、それでかえって余計な尾ひれがついて拡散されてしまう。俺が中等部に入学してからもそうした事例があったらしい。表には全く出てこないのに。

 さすがに俺たちの学年からそんなケースが出るとは思えないし、思いたくもない。ただ、危ない奴はいるにはいる。俺たちS組の中にも一人。それが渋谷恭平(しぶやきょうへい)だ。

 S組と言われれば女子なら和泉(いずみ)明音(あかね)純香(すみか)の顔を思い浮かべるだろうが、男子なら間違いなく恭平(きょうへい)だ。

 イケメンと軽く言うのもおこがましいくらいの美少年でスポーツ万能。そして成績が学年十位以内とあっては女子の憧れの的だろう。先輩女子にすらキャアキャア言われている。

 俺と耀太を加えた三人で街中に繰り出したりすると女子高生たちに目をつけられる。すると恭平が可愛いお姉さんたちを見繕って声をかけカラオケに行ったりするのだ。まだ中等部にいた頃そういうことをしていた。さすがに健全なお遊びだったと俺は思うが、恭平がその気になればいくらでも高校生のお姉さんと親しくなれただろうと思う。

 その恭平は今テニス部を中心に活動していて常に女子に取り囲まれている。

 クラスの外で広く浅い付き合いをしてくれているうちは良い。しかしクラスの中で活動して欲しくはない。毎日顔を合わせるエリアで問題を起こして欲しくないのだ。俺にとってS組は特別だったから。

 だから俺は恭平が教室内にいる時はできるだけ絡むようにしていた。女子と一対一にすべきではない。

「恭平っち、元気?」とか言いながら奴の後ろから首まわりに手をかけたりしてじゃれつく。

「何だ、大地(だいち)か。うぜえな」と爽やかな笑顔をまわりに見せつつ俺の腕をほどくのだった。「お前は俺の飼い犬か」

「そうだよ、きゃんきゃん」と俺は犬の真似をして周囲の笑いをとる。

 そこには和泉(いずみ)純香(すみか)梨花(りか)もいた。恭平が教室内にいる時、必ずS組の女子の誰かがいる。

 特に梨花は栗鼠(りす)のような動きで恭平にまとわりついたりしていた。

 おそらく梨花は恭平のことが好きなのだろう。ただ、梨花はああ見えていざとなると二の足を踏むような慎重な奴で、他の女子に抜け駆けてまで恭平との距離を縮めようとはしない。

 それに、恭平には自分よりも和泉や純香の方がお似合いだと思うような自己評価の低い面があった。

 梨花には梨花の魅力があり、タイプの異なる和泉や純香と比較するなんてナンセンスなのだがそういうことはわからないようだ。

 恭平はそんな梨花の気持ちに気づいているのだろうか。あいつは女子の羨望を集めすぎてファン心理と恋心の区別がつかなくなっているのかもしれない。

 梨花はもともと俺を含めた他の男子にも距離近く接する子だから自分にもそうなのだろうと恭平は思っているに違いない。

 だから梨花の頭を()でたり、餌付(えづ)けするように自分の食べかけのソフトクリームを梨花の口に突っ込んだりすることができるのだ。

 それをされて梨花がどう思っているかなど考えないのだろう。

 梨花は「もーう」と頬を膨らませたり「ひっどーい!」と小動物の憤慨を見せて周囲の笑いをとったり和ませたりしている。まるで俺ではないか。

 俺と梨花は同類だ。S組にあって俺たちはいじられ役だった。

「テニス部はどうなの?」和泉が恭平に訊く。「たくさん入部した?」

 実は恭平に対して上からものを言える女子は少ない。それができるのは四天王くらいだ。和泉はその四天王の一人だった。なお四天王とは、俺がその名称を布教してまわっている、S組十傑の中でもさらに特別な四人の女子だ。

「まあまあかな」

 気取っているわけでもないのに和泉を振り返る恭平の顔は二枚目役者のようだ。

 こんな顔を向けられたらたいていの女子は顔を赤らめるのだろうが和泉は全く動じない。

「可愛い子が入ったようだけれど」和泉は目を細めて微笑んだ。

 いやむしろ恐くね?

「可愛いというより美人だな」恭平がそう言うのだから相当なものなのだろう。

「何なに、俺も見てえ!」俺はツッコミを入れた。

「じゃあ来いよ。なかなかいけてるぜ」

 悪い奴ではないんだ、恭平は。ただ悪気がないだけ。それがどのくらい罪深いかわかっていない。

「はいはい、お決まりのルッキズムね」

「俺は和泉の方がタイプだけどな」和泉の目を見ながら恭平は言った。

一昨日(お・と・と・い)来やがれ」和泉は目を細めた。やっぱり和泉は恐い。

 こうしていつも教室の真ん中で俺たちはじゃれあっている。

不定期更新ですが、続きます。

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