表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
S組のひと ーヒガサ君は蚊帳の中ー  作者: 柏栖一/Hakusuya
13/65

昼休みのバスケット

登場人物

 樋笠大地 御堂藤学園高等部一年A組

 栗原耀太 一年A組 身長百九十超の巨漢

 篠塚秀一 一年A組 男子学級委員

 渋谷恭平 一年A組 テニス部の美少年

 浅倉明音 一年A組 番長 ボランティア部専属部員

 小原梨花 一年A組 ボランティア部レクリエーション部所属

 昼休み、俺と耀太(ようた)秀一(しゅういち)の三人は中庭のバスケットコートにいた。

 この時間帯のコートは自由に使える。

 上着を脱いだだけの制服姿の男子がボール遊びをするのがよく見られる光景で、俺たちはその常連だった。たまたまそこにいた生徒と3×3(スリーエックススリー)をして遊ぶのだ。

 上級生たちのグループもいたりするが、俺たちが姿を現すとどこかへ行ってしまう。何しろ俺たちS組十傑の男子は無敵だったから。

 身長百九十超えの耀太がいるだけでも無敵なのだが、秀才タイプの秀一も俺よりバスケは上手い。見かけに騙されると痛い目に遭う奴だった。

 そして俺は必死に努力してバスケのスキルを高めた。

 その結果、俺たちの相手をしてくれるグループがなくなってしまっていた。むしろ女子のチームの方が強いかもしれない。和泉(いずみ)明音(あかね)が入ったチームは強敵だろうと俺は思う。

 ゲームをする相手がいないと俺たちだけで遊ぶしかない。

 たまに恭平(きょうへい)が姿を見せて二対二をすることがあり、そうなったらギャラリーが大幅に増える。皆、恭平の姿が見たいのだと俺はわかっていた。

 そしてその日、恭平が現れた。テニス部らしき生徒が何人かいたからミーティングでもしていたのかもしれない。

 ミーティングといっても恭平の場合は単にハーレムしているだけだと俺は思っている。

 その証拠に恭平は見たこともないくらいの美人を連れていた。この子が高等部新入生で恭平が引っ張ったと和泉が言っていたとびきりの美人に違いないと俺は思った。

「何だ、暇そうにしているな」恭平の方から声をかけてきた。「誰にも相手してもらえないのか? 耀太がいたらバスケ部も逃げるな」

 なお、俺たちの学校のバスケ部は強くないし部員もギリギリで助っ人団の手を借りて大会に出ている。

「恭平が相手してくれるみたいだ」耀太が柔和な顔をした。

「久しぶりにやるか」恭平がおもむろに言った。

 新入生女子に良いところを見せるつもりだと俺は思った。

 恭平はそういう奴だ。決して意識してやっているわけでもないのに本能的に嫌な奴になってしまう。あくまでも俺から見て嫌な奴なのだが。

 俺たちは二対二に分かれた。恭平と秀一が組み、耀太は俺と組んだ。

 ギャラリーが一気に増える。ほとんどが女子だ。もともと六割以上が女子なのだが、今は九割を超えていた。もちろん上級生もいる。

「負けられねえな」俺はニヤリと笑って言った。

「お前は(しゅう)に相手してもらえよ」

「悲しい!」

 このやり取りは俺がボケて笑いをとる流れになっている。口だけ達者でこてんぱんにやられ、最後は「これくらいで勘弁してやらあ」と捨て台詞を残して退場するというお約束だ。

 それが俺の立ち位置だった。俺は恭平の前では完全に三枚目だ。

 しかしその時の俺は心底負けたくないと思った。あの美人の新入生に俺もまたS組十傑のひとりで、結構イケてるんだぜ、と見せたかったのかもしれない。いやはや何とも情けなく、憐れで、みっともない奴だ。

 恭平がボールを手にして始まった。

 俺はいつもとは違う動きをした。通常、校舎の方を突然指差して「あ、○○だ!」と叫んで恭平がそちらを向いた瞬間にボールを奪うという卑怯な手を使う。

 恭平も心得ていてわざとボールを奪われ、ギャラリーの笑いをとる、という流れだったのだが、俺は何も言わずに油断していた恭平からボールを奪った。

 こんなプレイは一度しかできない自信がある。

 恭平が「お」と洩らした時には俺はツーポイントラインまで戻って、その時すでにゴール下まで動いていた耀太に向かってロングパスを出した。

 耀太はそのボールをそのままアリウープでバスケットに沈めた。一点先取。

 キャアアアという歓声。それはもちろん耀太に向けられる。

 しかし俺は気持ち良かった。

「ほう……」恭平が不敵に笑った。「マジなんだな」

「当たり前よ」俺は恭平に聞こえる程度に言った。

 これは笑いをとる芸ではない。

 そしてまた恭平ボールで始まる。

「相手してやるよ」ステイドリブルをしながら恭平は言う。

 これも通常の流れならすぐに秀一にパスを送って身構えた俺を置いてけぼりにする流れなのだが、恭平はそのまま俺に向かって突っ込んできた。

 俺もそれを読んでいた。毎日耀太や秀一に揉まれているから凡人の俺でもそれなりに上達する。そして俺は恭平の癖もよく知っている。

 一旦俺は恭平の動きを止めた。そうなると奴は俺の左から抜くと見せかけ時計回りに一回転(ターン)して俺の右から抜いていく。

 そう思ったのだが、恭平が背を向け、俺が右に注意を向けた瞬間、奴は逆回転して俺の左から抜いていった。俺の読みが読まれた形だ。

 恭平の前に耀太が立ちはだかるが恭平は秀一にパス。秀一がツーポイントラインの外から二点シュートを決めた。

 秀一に歓声が流れる。

 秀一は眼鏡に手をやった。まんざらでもなさそうだ。

 恭平が俺に言った。「惜しかったな、早く動きすぎだ」

 こいつ背中に目があるのかよ。

 今度は俺のボール。恭平がステイした俺の前に立つ。

 もうすでに俺は動きを封じられた。絶妙の距離感。俺は恭平の間合いに取り込まれていた。

 どう動こうが抜ける気がしない。

 パスをもらいに耀太が秀一を振り切って俺の右斜めに来る。俺はそこへパスを出す、と見せかけて耀太のさらに右へと行く。

 俺を追う恭平と耀太が交錯。審判がいたら耀太はファウルをとられただろうが、ここは遊びだ。恭平にしたって耀太にぶつかって大袈裟に倒れたりしない。

 しかし耀太の壁で恭平を振り切った。と思ったら目の前に秀一。

 恭平とのワンオンワンだと思っていたのは俺だけだった。

 しかも秀一も抜けない。どうしようかと止まった瞬間、恭平にスチールされた。

「俺から目を離すなよ」

 恭平はツーポイントラインの外まで戻って恭平たちのオフェンスで再開。

 俺は恭平の前に立った。

「秀一は任せろ」耀太が言ってくれたので俺は恭平に集中する。

 恭平も秀一を頼らずに俺を抜くとみた。

 今度こそワンオンワン。

 あらゆる動きを想定したつもりだったのに、運動能力の差は歴然だった。

 恭平の瞬発力は素晴らしく、左右への切り返し、フェイクの入れ方も秀逸で、俺は惨めにも翻弄された挙げ句に抜かれた。

 秀一の手を借りることなく恭平は俺を置き去りにした。

 まるで歯が立たない。マジでやってこれ程差があると思い知らされるとは。

「何だよ、もう終わりか?」

 挑発までしやがる。

 ギャラリーがさらに増えていて黄色い声援が飛ぶ。その大半が恭平に向けられている。

 やっぱりたいした奴だよ、お前は。俺はS組十傑の中では完全にモブだな。

 俺はまたしても立ちはだかる恭平の前でボールをつきながら動きを止めてしまった。これでは抜けない。

 その時俺の耳に声援が入った。

大地(だいち)、がんばれー」明音(あかね)だ。

 明音がギャラリーの女子たちの中から出てきていた。

 隣に梨花(りか)もいる。「二人とも、がんばれー」

 二人とも、かよ。まあ梨花はそういう奴だ。そしてどちらかと言えば恭平寄りの立ち位置だ。

「そんなのぶっとばせ、大地」しかし明音は俺を応援する。「チャラ()をぶっ(つぶ)せー」

「あ?」

 恭平が睨むように明音を見た瞬間、俺に活路が見えた。

 わずかな隙をついて俺は、明音を見た恭平の死角から奴を抜き去った。

 耀太が秀一を引きつけてくれたお蔭で俺は難なくゴール下まで到達。庶民的レイアップを決めた。

「よっしゃあああ!」

 俺は両拳を握りしめて咆哮した。そして耀太とハイタッチ。しかし手が届かず、ずっこける。

 ギャラリーから笑いが起こった。

 お笑い担当の俺のプレイに対してギャラリーはそうしたコントだと思っただろう。

 明音が(げき)をいれ、恭平が明音を睨み、そしてその隙に俺が抜いてゴールするという一連の流れを仕組まれた演出だと思ったかもしれない。

 ギャラリーを意識した時、俺たちはいつもそうした寸劇を演じてきた。

 しかし今回は違う。このプレイだけは嘘偽りのないものだったのだ。そしてそれは俺たちにしかわからないことだった。

 結局俺と耀太のチームは恭平と秀一のチームに完敗した。

 ギャラリーにはとても良くできた見物だったろう。

 それでも俺は何だか気持ちが良かった。たまにはこういうのも良いものだ。

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ