番外編 ちょっと納得がいかない雨宮
雨宮視点のお話です。
「いやあ、わざわざ片付けに来てくれるなんて、ほんと、ありがとうね〜」
「いえ。これから、この部屋に来る機会が増えるとなると、散らかってるのは、私も嫌ですから」
とある平日の放課後。
私は、家に帰る前に、田中さんの家へと寄っていた。
理由は、そこを片付けようと思ったからだ。
これからここで、定期的にオフコラボをするのであれば、さすがにこの家は、片付けておきたい。
「ルナちゃんは、きっといいお嫁さんになるよ〜」
「……お、お嫁さんとか、やめてください」
「あれ〜? 照れてるの〜? ははは、かわいいなあ〜」
「……なんか、田中さん、ちょっと酔ってます?」
机の上に置かれたお酒の缶を片付けながら、私はそう言った。
「酔ってないよ〜」
いや、これは酔ってるな。
なんだか、ぼんやりしているし、お酒の缶が散らかってる時点で、お察しだ。
「……」
しかし、片付け……はかどらないな。
そもそも、私は根本的に、片付けが嫌いな人間だ(まあ、片付けが好きな人なんて、そうそういないと思うが)。
その上、自分の部屋ならまだしも、共用のスペースの片付けとなると、本当にモチベーションが湧かない。
特に、私の片付けの恩恵を、あいつまで受けるのかと思うと、やる気が湧かないのを通り越して、げんなりすらしてくる。
それでも、やっぱりこの小汚い部屋は見るに堪えないので、つい片付けをしてしまうのだけど。
「うん〜? これは、私のか? 宇佐のか?」
田中さんが、散らかった衣服を掲げながら、首を傾げている。
そうだ。
いい機会だから、ちょっと、前々から思っていたことを、聞いてみよう。
「あの、田中さん」
「ん? どした〜、ルナちゃん」
「つかぬことを聞きたいんですが、あいつ……大山とは、どういう関係なんですか?」
「どういう関係? なんで〜?」
「田中さんって、大山のことは”ユウ”って呼び捨てにしてるじゃないですか。私のことは、ちゃん付けなのに」
本当に、大したことではないのだが、実は、ちょっとだけ引っ掛かっていたのだ。
「ちゃん付けじゃ、いや?」
「……別に、呼び方がいやってわけじゃないんですけど……それじゃあ、田中さんと大山の方が、親しいみたいじゃないですか。私の方が、長くいるのに」
「ん〜? おやおやおや〜??」
田中さんは、酔っ払いの典型みたいに絡んできた。
「おやおやおや」
「な、なんですか、その絶妙に腹の立つ顔は」
「もしかして、それは、嫉妬ってやつかね?」
「……っは、はあ!?」
嫉妬!?
私が? あいつに?
「な、何言ってるんですか、田中さん! 違いますよ! 私が、し、嫉妬なんか、するわけないじゃないですか!」
「え〜、そうかなあ?」
「そうですよ! だって、私たちは……ただの仕事仲間であって、それ以上の関係ではないんですし」
「でも仲良いじゃん」
「そ、それは……別に、特別、仲が良いわけじゃなくて、普通です」
「え〜、ほんとう〜?」
そうだ。誰が、あんなやつに嫉妬なんかするものか。
そもそも、嫉妬というのは、その人のことを、す、好いていることが前提で、その上で、そいつを独占したいと思う感情からくるものだ。
あんな嫌味な男の、どこに好くほどの魅力があると言うのだ!
「嫉妬するなんて、絶対にありません! そもそも、そんな感情が生まれる要素が、全くありません!」
「……」
田中さんは、黙ってしまった。
あっ。
やってしまった。
つい熱くなりすぎてしまった。
少なくとも、視聴者さんや田中さんの前では、私とあいつは、仲良くしていなければいけない。
つい先日、私がそう言ったばかりではないか。
もう、何をしているんだ、私は!
「えー、ひどくなーい? 私と仲良くしたくないの〜?」
「……え?」
私と……?
「だから、ルナちゃんは、ユウと仲良くしてる私に嫉妬してたんでしょ? 大丈夫大丈夫。今から、ルナちゃん……ルナのことも、呼び捨てにしてあげるから!」
「……え、あ、ハイ」
「はあ〜、それにしても、モテる女は辛いわね〜。おほほほほほ」
上機嫌に笑う田中さん。
あれ、なんか……ひょっとして、私、勘違いしてた?
「でも、私と仲良くしたいってことが、そんなに照れるかね? 別に女同士なんだし、そこまで照れることもないのに」
「あっ、いや! そうですよね! 私と田中さんの仲ですし、照れる必要なんてないですよね!」
「私は、ルナのことも大好きだし、自信持ってけ〜!」
「あ、ありがとうございます」
な、なんだか、ものすごく恥ずかしい思いをしてしまった。
私は、恥ずかしくて、田中さんと目を合わせることができず、黙々と片付けを続けた。
結局、田中さんの部屋は、自分でもびっくりするほど早く片付け終わった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
次のお話から、第2章となります!