8話 次のコラボも
「いやあ、良かったよ二人とも! いつものコラボ配信と比べても、今回は特に、てえてえが爆発してたね!」
配信が終了し、寝室から出てきた田中さんは、いの一番にそう言った。
「オフコラボならではの距離感も絶妙で、新婚さんみたいだったし、あ〜ん、のくだりとかも、もう、見てて尊死するかと思ったもん。二人とも、本当に付き合ってないの?」
「「付き合ってません」」
雨宮と、声が被ってしまった。
気まずそうにする俺たちを傍目に、あははと笑う田中さん。
「す、すみません、ちょっと、お手洗いお借りしてもいいですか?」
「ああ、もちろん。どうぞどうぞ」
雨宮は、気まずくなったのか、その場を離れた。
再び、二人きりになる俺と田中さん。
「や〜、ユウもすごく良かったよ」
「ありがとうございます」
「……でもさ、なんかちょっと、いつもより固い感じがしたんだよね〜」
思いがけない言葉に、ピクッと体が反応してしまう。
「……気のせいじゃないですか?」
「そうかなあ。あのさ、もしなんか悩みとかあるんだったら、隠さず言ってよ?」
「悩みなんて、ないですよ」
「そっか。でも、悩みとまではいかなくても、気になることがあれば、遠慮しないで言ってね。ユウたちの心のケアも、マネージャーの仕事だから」
「……はい。わかりました」
そう言っていただけるのは、心も軽くなるし、とてもありがたい。
でも、俺と雨宮の仲のことは、田中さんが想定しているような、”小さなこと”じゃない。
それだけに、本当に言っても良いのか、不安になってしまう。
少しして、雨宮がハンカチで手を拭きながら戻ってきた。
一瞬、目があってしまい、お互いに慌ててそらしたのがわかった。
田中さんは、一瞬不思議そうな顔をしていた。
「よし、それじゃあ、料理片付けちゃおうか」
その後、俺たちは3人で、食卓を囲んだ。
雨宮のハヤシライスは完食し、俺のチャーハンは、少しだけ余ってしまったのでタッパーで保存しておいた。
田中さんの今日の夕食になるらしい。
食事を終えると、食器を洗い、すべての片付けが終わると、俺と雨宮は、事務所を後にした。
玄関を出るとき、二人一緒に出てしまったため、流れで駅まで一緒に帰ることになってしまった。
「……」
「……」
沈黙が続く。
ちょうど、駅まで残り半分くらい歩いたところで、俺は意を決して話を振る。
「雨宮」
「なに?」
「さっきはよくもやってくれたな」
「どれのこと?」
……くっ。
思い返せば、こいつにやられたことが多すぎて、はっきり指摘できねえ。
「いろいろ言いたいことはあるが」
「うん」
「……命令のことだ」
「命令?」
「だから、せっかく勝負に勝ったのに、あんな命令で良かったのかよ?」
「ああ……」
料理対決は、ルナの勝利で幕を下ろした。
そして、雨宮が俺に言い渡した命令は、『一週間チャンネルの名前を”ルナに負けたユウ”にすること』だった。
まあ、屈辱的であると言えばそうだが、正直、想像していたよりも、はるかに軽いものだったため、少し肩透かしをくらった。
「言っておくけど」
「ああ」
「あんたのことは嫌い」
「……なんだよ。改まって」
「でもそれ以上に、私は、視聴者さんのことが好き」
雨宮は、まるで何かを思い出すように、遠くを見ながら、言った。
「毎日、私の配信を見にきてくれる人もいるし、私が、おふこみゅにてぃに入る前から、ずっと、応援してくれてる人もいる。私は、そんな視聴者さんの期待に応えたい。だから、私は、ルナというキャラクターが言いそうな回答をしたの。あんたに屈辱を与えたい気持ちを、ぐっとおさえてね」
「……最後の言葉さえなけりゃ、共感できたのによ」
「あんたに共感なんか、されたくないわ」
「そうかよ」
話しているうちに、駅に着いた。
ここからは、俺たちは違う電車に乗ることになる。
「あのさ、一応言っとくけど、このことは、学校の誰にも言わないでよ」
このこと、とはつまり、雨宮が、VTuber月明ルナである、ということだろう。
「わかってる」
「もし言ったら、ただじゃおかないから」
「わかってるって」
◇
駅で雨宮と別れ、帰宅した。
時刻は18時をすぎたところであった。
「疲れたぁ」
部屋に戻ってくると、俺はベッドにダイブした。
昼から夕方までで、そこまで長い時間でもないのに、普段の学校生活よりも、はるかに疲れていた。
雨宮と一緒にいると、どうも、疲れてしまう。
この先も、あいつと一緒に動画を撮ったり配信するなんて、やっていけるのだろうか……。
俺はポケットからスマホを取り出し、天使美雨のチャンネルを開いた。
天使美雨は、チャンネル登録者100万人を超える、大手企業に所属する超大物VTuberだ。
やっぱり、天使さんの配信は癒されるなあ。
ベッドで横になりながら、彼女の配信のアーカイブを見る。
天使美雨さんは、俺がVTuberにハマるきっかけになった人であり、俺の憧れの人でもあった。
彼女の配信を見ると、癒やされると同時に、配信活動へのモチベーションも湧いてくる。
「……」
今日。雨宮は、少なくとも視聴者さんに対しては、月明ルナとして、キャラクターを貫いた。
なら、俺も変に意識せず、これからもユウとしてのキャラクターを貫くべきだよな。
幸い、オンラインでのコラボ配信では、あいつと顔を合わせることはない。
それならば、自分のキャラクターを貫くことも、今日よりは、ずっと容易いだろう。
「次のコラボも、ちゃんと頑張ろう……」
そう、自分の決意を呟き、まぶたを閉じた、その時。
田中さんから、おふこみゅにてぃのグループに、チャットが届いた。
俺は動画を閉じて、すぐにメッセージを確認する。
『二人ともお疲れ様! 今後、土曜日の定期コラボ配信を、オフコラボにしようと思うから。そのつもりで、よろしく!』
え?
思わず、文章を二度読み返した。
――今後、定期コラボ配信を、オフコラボにしようと思う。
ちょっと待って。
つまり、毎週、雨宮とオフで会って、一緒に配信をしなくちゃいけないの?
嘘だろ!?
さっきまで、何なら寝落ちしようとしていた俺の意識は、一気に覚醒していた。
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◇
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