表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/27

8話 次のコラボも

「いやあ、良かったよ二人とも! いつものコラボ配信と比べても、今回は特に、てえてえが爆発してたね!」


 配信が終了し、寝室から出てきた田中さんは、いの一番にそう言った。


「オフコラボならではの距離感も絶妙で、新婚さんみたいだったし、あ〜ん、のくだりとかも、もう、見てて尊死するかと思ったもん。二人とも、本当に付き合ってないの?」

「「付き合ってません」」


 雨宮と、声が被ってしまった。

 気まずそうにする俺たちを傍目に、あははと笑う田中さん。


「す、すみません、ちょっと、お手洗いお借りしてもいいですか?」

「ああ、もちろん。どうぞどうぞ」


 雨宮は、気まずくなったのか、その場を離れた。

 再び、二人きりになる俺と田中さん。


「や〜、ユウもすごく良かったよ」

「ありがとうございます」

「……でもさ、なんかちょっと、いつもより固い感じがしたんだよね〜」


 思いがけない言葉に、ピクッと体が反応してしまう。


「……気のせいじゃないですか?」

「そうかなあ。あのさ、もしなんか悩みとかあるんだったら、隠さず言ってよ?」

「悩みなんて、ないですよ」

「そっか。でも、悩みとまではいかなくても、気になることがあれば、遠慮しないで言ってね。ユウたちの心のケアも、マネージャーの仕事だから」

「……はい。わかりました」


 そう言っていただけるのは、心も軽くなるし、とてもありがたい。


 でも、俺と雨宮の仲のことは、田中さんが想定しているような、”小さなこと”じゃない。

 それだけに、本当に言っても良いのか、不安になってしまう。


 少しして、雨宮がハンカチで手を拭きながら戻ってきた。

 一瞬、目があってしまい、お互いに慌ててそらしたのがわかった。

 田中さんは、一瞬不思議そうな顔をしていた。


「よし、それじゃあ、料理片付けちゃおうか」


 その後、俺たちは3人で、食卓を囲んだ。

 雨宮のハヤシライスは完食し、俺のチャーハンは、少しだけ余ってしまったのでタッパーで保存しておいた。

 田中さんの今日の夕食になるらしい。


 食事を終えると、食器を洗い、すべての片付けが終わると、俺と雨宮は、事務所を後にした。

 玄関を出るとき、二人一緒に出てしまったため、流れで駅まで一緒に帰ることになってしまった。


「……」

「……」


 沈黙が続く。

 ちょうど、駅まで残り半分くらい歩いたところで、俺は意を決して話を振る。


「雨宮」

「なに?」

「さっきはよくもやってくれたな」

「どれのこと?」


 ……くっ。

 思い返せば、こいつにやられたことが多すぎて、はっきり指摘できねえ。


「いろいろ言いたいことはあるが」

「うん」

「……命令のことだ」

「命令?」

「だから、せっかく勝負に勝ったのに、あんな命令で良かったのかよ?」

「ああ……」


 料理対決は、ルナの勝利で幕を下ろした。

 そして、雨宮が俺に言い渡した命令は、『一週間チャンネルの名前を”ルナに負けたユウ”にすること』だった。

 まあ、屈辱的であると言えばそうだが、正直、想像していたよりも、はるかに軽いものだったため、少し肩透かしをくらった。


「言っておくけど」

「ああ」

「あんたのことは嫌い」

「……なんだよ。改まって」

「でもそれ以上に、私は、視聴者さんのことが好き」


 雨宮は、まるで何かを思い出すように、遠くを見ながら、言った。


「毎日、私の配信を見にきてくれる人もいるし、私が、おふこみゅにてぃに入る前から、ずっと、応援してくれてる人もいる。私は、そんな視聴者さんの期待に応えたい。だから、私は、ルナというキャラクターが言いそうな回答をしたの。あんたに屈辱を与えたい気持ちを、ぐっとおさえてね」

「……最後の言葉さえなけりゃ、共感できたのによ」

「あんたに共感なんか、されたくないわ」

「そうかよ」


 話しているうちに、駅に着いた。

 ここからは、俺たちは違う電車に乗ることになる。


「あのさ、一応言っとくけど、このことは、学校の誰にも言わないでよ」


 このこと、とはつまり、雨宮が、VTuber月明ルナである、ということだろう。


「わかってる」

「もし言ったら、ただじゃおかないから」

「わかってるって」



 ◇



 駅で雨宮と別れ、帰宅した。

 時刻は18時をすぎたところであった。


「疲れたぁ」


 部屋に戻ってくると、俺はベッドにダイブした。

 昼から夕方までで、そこまで長い時間でもないのに、普段の学校生活よりも、はるかに疲れていた。


 雨宮と一緒にいると、どうも、疲れてしまう。

 この先も、あいつと一緒に動画を撮ったり配信するなんて、やっていけるのだろうか……。


 俺はポケットからスマホを取り出し、天使あまつか美雨みうのチャンネルを開いた。

 天使美雨は、チャンネル登録者100万人を超える、大手企業に所属する超大物VTuberだ。


 やっぱり、天使さんの配信は癒されるなあ。


 ベッドで横になりながら、彼女の配信のアーカイブを見る。

 天使美雨さんは、俺がVTuberにハマるきっかけになった人であり、俺の憧れの人でもあった。

 彼女の配信を見ると、癒やされると同時に、配信活動へのモチベーションも湧いてくる。


「……」


 今日。雨宮は、少なくとも視聴者さんに対しては、月明ルナとして、キャラクターを貫いた。

 なら、俺も変に意識せず、これからもユウとしてのキャラクターを貫くべきだよな。


 幸い、オンラインでのコラボ配信では、あいつと顔を合わせることはない。

 それならば、自分のキャラクターを貫くことも、今日よりは、ずっと容易いだろう。


「次のコラボも、ちゃんと頑張ろう……」


 そう、自分の決意を呟き、まぶたを閉じた、その時。

 田中さんから、おふこみゅにてぃのグループに、チャットが届いた。


 俺は動画を閉じて、すぐにメッセージを確認する。


『二人ともお疲れ様! 今後、土曜日の定期コラボ配信を、オフコラボにしようと思うから。そのつもりで、よろしく!』


 え?


 思わず、文章を二度読み返した。


 ――今後、定期コラボ配信を、オフコラボにしようと思う。


 ちょっと待って。

 

 つまり、毎週、雨宮とオフで会って、一緒に配信をしなくちゃいけないの?

 嘘だろ!?


 さっきまで、何なら寝落ちしようとしていた俺の意識は、一気に覚醒していた。

現在の登録者数

65000人



ここまでお読みくださり、ありがとうございます!

第一章はここまでとなります。

よろしければ、お気軽に、感想、評価、ブックマークなどしてくださると、大変嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ