1話 もっと有名になりたい
少し散らかった、薄暗い部屋の中。
俺は、ヘッドフォンをしながら、パソコンと向き合っていた。
『んん〜、つっかれたぁ〜。ねえ、今日の配信はこれくらいにして、もうおわりにしない?』
ヘッドフォンから聞こえてくる通話相手は、眠そうな声でそう言った。
「あー、そうだな。ぼちぼち終わるかぁ。えーっと……もう1時!? けっこう遅くまでやってたんだな」
『私はもうねむいよ』
「あはは、ルナはもう限界か。じゃあ、もう枠閉じるか」
俺はマウスとキーボードから手を離し、画面はその場で停止する。
協力型のサバイバルゲームをやっていたのだが、現在地は安全な拠点だったので、その場で棒立ちしていても問題はなかった。
「みんな、こんな遅い時間まで見てくれてありがとう」
『またあした……あさって? くらいに配信する予定なので、みんなみてね〜』
「あ、俺のチャンネルでは、それまでに一本動画が上がると思うから、そちらも是非見てくれると嬉しいです」
『てことで、みんな、またね〜』
配信のコメント欄が、『お疲れさま!』というコメントで加速し、ユウとルナのコラボ配信は、終了した。
しっかりと配信が終了していることを確かめてから、俺は背もたれに限界までもたれかかり、思い切り体を伸ばした。
「んんんん〜、今日も疲れたぁぁあ……」
そして、背もたれから一気に戻った反動で、そのままキーボードを打ち込み、先ほどのコラボ相手であった、ルナさんに、メッセージを送る。
『お疲れ様です。本日もありがとうございました。ルナさん』
すると、すぐさま、返事が返ってくる。
『お疲れ様です。こちらこそ、ありがとうございました。ユウさん』
◇
俺、大山悠介は、ごく普通の高校2年生。
頭の出来も普通。運動神経も普通。ルックスも普通。と、本当にどこにでもいるような男である。
そんな俺だが、唯一、普通とは少し違った趣味があった。
それは、VTuberをやっているということだ。
俺は元々、普通のゲーム実況者として活動していた。
しかし、1年間毎日動画を投稿し続けて、やっとチャンネル登録者数は1000人ちょっと。
お世辞にも、あまり伸びているとは、言えなかった。
そんな時、『月明ルナ』という方から、声をかけられた。
「私とコラボをしませんか?」と。
コラボのお誘いを受けたのは、それが初めてだった。
俺は、不埒ながらも、彼女のチャンネル登録者数をチェックしてみることにした。
すると、彼女のチャンネル登録者数は、2万人を超えていた。
どうやら、『おふこみゅにてぃ』という小さな事務所に所属する、VTuberのようだった。
彼女が俺なんかに声をかけた理由は分からないが、俺は、チャンネル登録者数を伸ばすチャンスだと考え、二つ返事でOKした。
結果として、その選択は正しかった。
彼女とコラボをしてから、俺のチャンネル登録者数はぐんと伸び、あっという間に1万人にまで到達した。
チャンネル登録者数が大きく伸びたのは、ルナさんも同様だった。
視聴者さんいわく、俺とルナさんのやりとりが「仲良し兄妹みたいで、てえてえ」と、好評だったのだ。
実際、俺とルナさんは趣味も似ており、簡単に打ち解けた。
その後も、コラボの頻度は日増しに増えていき、やがては、ほとんど二人三脚で活動するようになっていた。
そんなある日、俺は彼女の事務所から声をかけられた。
「うちの事務所で、VTuberになりませんか?」と。
俺は再び、二つ返事でOKした。
俺がVTuberになってから、二人の動画は、さらに再生されるようになった。
今や、俺のチャンネル登録者数は5万人ちょっと。ルナさんのチャンネル登録者数は4万人ちょっと。
少し前に比べて、どちらも大きく成長した。
……しかし、動画配信とは面白いもので、ぐっと伸びたと思ったら、またすぐに伸び悩む。
現状でも、全部で5人の小さな事務所にしては、十分なほど、数字は稼げている。
が、成功すれば更なる欲が出てしまうもので、今の俺はもっともっと、数字を伸ばしたいと思うようになっていた。
「……もっと有名になりたいなぁ……」
チャンネル登録者数100万人とか、超憧れるけど、今の伸び率を考えると、そんなの夢のまた夢だ。
でも、とりあえずチャンネル登録者数10万人くらいは、いきたいよなぁ。
そんなことを考えながら、俺は明日の学校に備え、アラームをセットして、ベッドに入った。
節目の話に、ユウの現在のチャンネル登録者数を記載していこうと思います!
現在の登録者数
54000人