えんぴつくん(1)
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腹が立つくらいの美女――組織の管理官から新しいバディを紹介された。細面に痩躯。撫で肩なのでえんぴつみたいな男だなって思った。「前職は自衛官よ」と管理官から聞かされた。
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巨大カワウソがまた街で暴れているらしい。地下鉄で現場に赴く。
「えんぴつくんって呼んでいい?」
「はい。それはそうと」
「なんだろ?」
「組織にはもっと強力な武器が必要です。いまの装備では足りません」
「いざとなったらそれこそ自衛隊? 連中が仕留めてくれるよ」
「だったら、ぼくたちの役割ってなんですか?」
あたしはクスクス笑った。
「なんでもいいじゃん。給料いいんだし」
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自衛隊が巨大カワウソ相手に銃撃しまくっている場面に出くわした。カワウソは沈まない。あちこちに突進して、あるいは装甲車ごとひっくり返す。ヤバい。いくら高給をもらってるからといって簡単に死を迎えたくは……いや、それでもいいか。
「先輩! 援護してください!!」
呆れた。えんぴつくんってば左手に提げていた鞘から抜刀し、カワウソ目掛けて正面から突っ込んでいく。咄嗟にあたしは「こら! 死に急ぐな!!」と怒鳴った。でも、えんぴつくん、速い。相手がぶんぶんと振るった両手を掻いくぐって懐に飛び込むと「ザシュッザシュッ」と鮮やかな音が聞こえてきそうなくらいカワウソの腹を斬った。飛び上がって胸に刀を突き立てた。カワウソは一目散に逃げてゆく。
えんぴつくんが駆け足で戻ってきた。深追いしないところが賢い。あとは自衛隊のみなさまに任せたっていいだろう。
「凄いね、えんぴつくん。ほっぺにチュッてしてあげよっか?」
「女性は苦手なんです。あと、お酒と煙草も」
「あたしは全部好きなんだけど?」
「知ってます」
「なら、どうしてあたしのバディに立候補したの?」
「あなたがとても寂しそうに見えたから」
あたしは眉をひそめたのち笑った。
「写真を見ただけで、そう感じたの?」
「いけませんか?」
いや、悪くない。
実際、あたしは常に寂しがってるから。
「行こう、えんぴつくん。昼御飯、奢ったげる。なにがいい?」
「かつおのたたき定食がいいです」
「そんなの聞いたことがないけど?」
「案内します。おいしいんですよ?」
えんぴつくんが先に立って歩きだした。
その背にはたしかな逞しさと頼もしさが宿っていて。
えんぴつくんなら、あたしより先に死ぬことはないかもしれない。
そう考えると、破顔してしまうくらい嬉しく感じられた。