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戦闘力ゼロなので

戦闘力ゼロなので〜諦めさせてもらえません。〜

作者: 雨砂木

「ふえぇーん!ご、ごべんなざいいいいー!」


獣と酒と男臭さで鼻が曲がりそうな冒険者ギルドのど真ん中。

ガタイのいいおっさんが振り下ろした拳骨を受けた頭頂部を両手で覆いながら、わたしはとにかく謝りまくった。


「ひっく。臭いって言っで、ごめんなざいいぃ!動物園呼ばわりじで、ずみませんでじだあ!ずびー!」


タイトルは『花の盛りの女子高生、みっともなく大号泣』である。

ああいや、もはや花盛りとか言ってて恥ずかしくなるくらい、身も蓋もなく謝り倒したけど。


小柄なわたしに、上からすっごい圧をかけてくるおっさんのピクピクする青筋マジで怖い。

足ガックガクする。

お願いします、本当もうこれ以上は心がポッキリ折れて、体からいろんな液体が放出する事態になりそうです!


ピーポーピーポー!緊急!人の尊厳の危機でーす!

なんて、わたしのしょうもない内心を読んだか知らないけど、余計にその眼力がギン!と強くなった。


「ひぃ!?」


あ……これ、ちょっと、まずいかも。

はい、カウント入ります。

さよなら乙女まで……ごー、よーん、さーん、にー、いー……。


「いいよいいよ、熊さん。こんなちっさな子がベショベショになるなで反省してるんだ。それにあんたの眼力は女子供には刺激が強すぎるよ」

「…………はあ」


え、さ、下がった?今、引き下がったの?


「う……ぇ?」


報告します。

救世主が現れました!ハーレールーヤー!


おっさんの後ろから肩を叩いたのは、また別の無精髭のおっさんだった。

体はでかいけど、他の人よりちょっとシュッとしてる。

お酒でも飲んでたのか赤ら顔で酒臭いけど。


もともとこのギルド、すっごい臭いけどね。

……ひぃ、すみません失礼なことなんて思ってません!


にしても、うちの保護者って「熊さん」呼ばわりされてるのかあ。

よく熊狩りしてるから?見た目が熊みたいにでっかいから?

イジメ……は、ありえんな。イジメられるような外見じゃないもん。

うん。愛称みたいなものか。


「んで?最近引き取ったチビってのがお前かぁ。はははっ、初対面からやらかしてくれるなあ」


赤ら顔で笑う無精髭は、わたしのひっどい暴言を聞いていながら快活に笑った。

あれ?さっきも助けてくれたし、結構いい人?


「ぐすっ、いえ、あの……ほんとすみません。わたしが勝手に夢見てただけで、しっかり働いている人に失礼なこと言いました。本当に、ごめんなさい!」


これは本当に悪いと思ってる。

失言てやつ。

おっさんにゲンコツ貰っちゃったからじゃなくて、人としてね。

些細なおしゃべりで炎上する情報飽和社会で生きてきた女子高生だって、謝罪しないといけないことくらいわかるもん。

ギルドのくっさい空間でお仕事したいかと聞かれたら別だけど……。


「おお?なんだ、意外にちゃんとしてんだな」

「謝れんじゃねーかよ」

「物分かりがいいってのは、ガキの知恵だ。今度は気をつけろよ」


わたしは改めて頭を下げてしっかり謝ると、遠目から見ていた何人かが近寄ってきてあっという間に囲まれた。

か、囲まれてしまった……?


「な、なに何!?」


ひい!筋肉ムキムキで身長でかいのは分かるけど、そういう肉壁作るのやめてー。

そして男臭いし獣臭い!

申し訳ないけど、もっと距離をっ、距離をください!ギブミーディスターンス!


「まっ、悪い奴じゃねーし。熊さんの口利きだしな!みんなで迎え入れてやろうぜ!」

「…………え?」


いきなり和気藹々とし出したら、なんだか不穏な一言が聞こえた。

そしてそれに続く太い声たち。


「おー!頑張れよチビ!」

「初日からクビにならなくてよかったな。熊さんに感謝しろよー」

「がんばれー!」

「っしゃあ!飲み直すぞー!」

「うおおおおお!」

「……えぇー……?」


あれ、これは、まずいんではないかい?


ねえ、熊さんどう思う?

生意気な小娘なんて、後見人としてどう思う?


異世界ペーペーの小娘を拾って世話して後見人にまでなってくれた、恩義あるおっさんを下心のある上目遣いで見上げてみる。


ほら、こう言うんですよ。

「こんな世間知らずじゃまだ早い」って。わたしをギルドからクーリングオフさせてくださ……。

と思ったら、さっきよりもすっごい眼力で見下ろされた。


「……」

「……おおう」


すねかじりの被保護者でなければ、事案になるほどの凄みである。

目がやるよな?やらねえの?どうなるかわかってる?って顔してた。

あ、はははははぁー。空笑いしか出ないよ……。


「やります!もうすっごい頑張る!掃除とか匂い消しとか掃除とか掃除を主に!重点的に!」


なんだよ異世界来て、冒険者ギルドまで来て、掃除を頑張るって。

掃除は掃除でも暗殺系ジョブじゃないのよ。

非力な女子高生よ。箒とモップ構えたガチモンのお掃除係よ当然でしょ!


それやんないと嗅覚とメンタルと女子としての体臭が絶滅するわ!

わかってる、めちゃくちゃカッコ悪いこと言ってるのはねっ。


…………。

……あのー、おうち帰ったらちょっと泣いてもいいかな。

自業自得とはいえ、ギルドのバイト諦めさせてもらえませんでしたって。

就職決定。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

雨砂木

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