男爵令嬢に金品を盗まれた美男公爵様⇒恥をかいた末にメイド長に恋をする。
エーリス・ゴートレット公爵はそれはもう金髪碧眼の美しき公爵であった。
ただ、彼は今、頭を抱えていた。
金を持ち逃げされたのである。
真実の愛を誓った男爵令嬢マリー・エレクテアにだ。
いや、金だけではない。宝石類もいくつか無くなっていた。
メイド長のシェリエが呆れたように、
「だから、あの女は信用ならないと申し上げたのですが…」
彼女は若いながらも、しっかり者で、元メイド長の彼女の母の後を継いで、ゴートレット公爵家のメイド長を勤めているのであった。
エーリスは頭を抱えながら、
「彼女はとても優しく癒される女性だった。他の貴族令嬢達と比べて、純粋だった。
だから、愛していたし、信用していたのだ。」
シェリエはエーリスに紙の束を差し出す。
「これは、報告書でございます。マリー・エレクテア男爵令嬢の。
この前までは数々の男性と付き合っていたようですね。それに…今は悪い男に夢中で貢いでいるようです。その男はクロリス・アットランドと言う平民のごろつきですわ。」
「なんて事だ。シェリエ。我が公爵家の力を全て使って、二人を捕らえろ。盗まれた金品や宝石を取り戻すのだ。」
「お断りします。」
「何故っ??」
「わたくしは、ただの メイド長ですから。」
「嘘をつくな。お前は我が公爵家の軍事も担っているだろうがっ。」
「軍事だなんて物騒ですね。わたくしは、母から公爵家の闇の仕事の長も担っていますが…」
「そっちの方が物騒だろうっ?」
「無能な公爵様の為にわたくし達、闇の者を動かしたくはありません。」
「お前なっ…命令だ。しっかりと二人を捕まえて盗まれた物を取り返せ。」
「仕方ありませんね。承知しました。」
全く、メイド長の癖して、自分の言う事をまるで聞かない。
頭が痛いエーリスであったのだが…
まぁいい。自分を騙したマリーを捕まえて、しっかりと罰を与えるのだ。
まさか、男爵令嬢達をとっ捕まえる事によって、自分が更なる恥をかかされるとは思いもしなかった。
シェリエは闇の者を使い、2人をとっ捕まえきた。
公爵位を引退し、領地へ引きこもっていた両親も今回の騒ぎですっ飛んできたのだ。
大事なゴートレッド公爵家の金品や宝石が盗まれたのだ。
それをシェリエから報告を受けて黙っていられなかった。
父である元公爵は、縛られている二人を睨んでからエーリスに向かって、
「お前がしっかりしないから、こやつらに大事な金品を盗まれるのだ。」
元公爵夫人である母も、涙を流しながら。
「そうよ。貴方がもっとしっかりしてくれれば。」
エーリスは両親に向かって、
「申し訳ありません。でも私は、マリーとなら真実の愛を貫けると思ったまでです。」
マリーは目をウリウリとさせながら、
「悪かったと思っておりますわー。エーリス様。エーリス様は私の事を愛してる愛してるって、抱き締めてキスを沢山してくださったじゃないですか。
ミニスカートのメイド服を着てくれって懇願するから、着て差し上げたら足にキスを落として、君は素敵だって言ってくれたじゃないですかぁ。
脱いだ君はもっと素敵だって、飛び掛かって来たじゃないですかーー。
出来心だったんですう。許してくれませんかー。」
真っ白な目で両親は自分を見つめていて、エーリスは真っ青になった。
シェリエは呆れたように、
「お話は終わりましたか?この二人を騎士団へ引き渡して、詳しい取り調べを。」
闇の者達が二人を引っ立てて行く。
エーリスは、両親に向かって、
「父上母上っ。申し訳なくっ。」
「お前に爵位を譲ったのが凄く早かったような気がするが?」
「そうね…。まだエーリスに公爵位は早かった気がしますわね。」
シェリエは二人に向かって、
「今回の事は、わたくしの監督責任でもあります。申し訳ございません。これからはわたくしがしっかりくっきり監視致しますので。」
両親は納得したようで、父は、
「シェリエの言う事を良く聞くように。」
「解りました。」
エーリスは反省するしかなかった。
騎士団へ連れて行かれた二人は牢へ入れられて、盗まれた金品や宝石も戻って来て良かったと思う反面…
自分の恥を思いっきり両親へ暴露されてしまったエーリス。
頭が痛い話であって。
どうしてこうなった???
悪いのはマリーとその男で、自分は悪くないはずなのだが。
シェリエは呆れたような態度で。
「納得いっていないんですか?」
「当たり前だ。普通、こういうのは悪い奴らがざまぁされるのではないのか?私は悪い奴ではないのに、何故、ざまぁされた?」
「ああ、恥を暴露された事についてですね?それはエーリス様が 間抜け だからです。」
「シェリエっ…」
「しっかりとこれからはわたくしが監視して差し上げますから。」
それからのエーリスはシェリエにしっかり監視される生活となった。
彼は美男だからモテる。
しかしだ。女性を見る目が無いとシェリエに言われて、女性との付き合いに慎重にならざる得なかった。
鏡を見てため息をつく。
こんなに美しい自分なのにどうして、女性との付き合いに慎重にならざる得ないのか?
もっと華やかに社交界の中心にいてもいいのではないか?
それにこの間の男爵令嬢達に金品を盗まれた事件が有名になって、声をかけられることが以前に比べて減ったのだ。白い目で令嬢達に見られているような気がしてならなかった。
その時、シェリエが美しく着飾ってエーリスの前に現れた。
艶やかな黒髪に白いドレスが映えて、なんて美しいんだろう。と思わず見とれてしまうエーリス。
シェリエは微笑んで、
「わたくしがダンスのお相手をして差し上げますから、今宵は夜会へ出かけましょう。」
「シェリエはダンスが踊れるのか?」
「わたくしは万能なゴートレット公爵家のメイド長。出来ぬことなどありませんわ。」
共に夜会のダンス会場へ入れば、あまりのシェリエの美しさに、貴族令息達が取り囲む。
「どこの令嬢だ?」
「なんて美しい。」
「私と踊ってくれませんか?」
エーリスはゴホンと咳ばらいをし、
「この女性は私の連れだ。ゴートレット公爵家を敵に回すつもりか?」
「「「失礼しましたっ。」」」
シェリエをエスコートしてダンスを踊る。
何て上手なダンスだろう。
ふわりとシェリエが舞う度に、いい香りがして。
エーリスは思わず赤くなってしまうのであった。
こんな身近に素敵な女性がいたとは…
気が付かない私が馬鹿だろうか?
シェリエの耳元で囁く。
「どうか、私と結婚して欲しい。」
「お断りします。」
きっぱりとシェリエに断られてしまった。
「私は公爵だぞ。」
「存じております。」
「だったら結婚してくれてもいいじゃないか?」
「そうですね。貴方が公爵としてふさわしいとわたくしが認めたら結婚して差し上げてもいいですわ。」
エーリスは思った。
今までの自分はあまりにも頼りなく未熟だった。
これからはもっとしっかりと公爵にふさわしくなって、シェリエに認めて貰わないと。
シェリエと再びダンスを踊る。
万能なメイド長と、ちょっと頼りない公爵様との恋はまだ始まったばかりだ。