26話~ライアー~
演習が始まった。不安でしかない状態で開戦した。ハーグ宰相代理の副官ジョゼフは点が5点ある台形の陣を組んでいる。今までに見たことがない陣形である。こちらは横陣にするしかなかった。複雑な陣形ではなくとも敵の守備の隙をつけるような陣形にしたかったが、敵の陣形が分からないため、基本的な横陣を敷いてよかったのかもしれない。
敵の陣に真ん中の軍隊が当たっていく。わずかに敵の防衛陣が凹む。しかし、その後は進んでいかない。柔軟な防御陣である。私の指示をせずとも別の隊が斜めに突撃を敢行する。その突撃も同様に僅かに防衛陣を凹ませて終わっている。最初に突撃している兵士たちは先の方から兵士を失っている。敵兵の様子を見ていてもどのように動いているかよくわからない。
それよりも突撃を完全にいなされていることがすごい。コーリン将軍の兵士の突撃の中で威力があるのは騎馬隊であるが、もともと歩兵隊のため歩兵の突撃もかなり威力があるはず。演習で勝つにはあのからくりを理解する必要がある。
出鼻を挫かれてしまったが、他の隊もそれぞれ突撃している。しかし、どの隊も突破できない状態になっている。楯兵であってもあそこまで頑丈な陣を築くことができるとは思えない。規模が小さいが波状攻撃も通じなかった。斜めの突撃も駄目、曲がった突撃も失敗。これではどんな突撃でも通用しない。ワカトシのゴワシ隊を呼ぶ。真横から突撃してもらう。その突撃で何かしらわかることがあるはずだ。副官のイーリンも嫌な顔をしているが、何も言わない。
状況的にこのままでは負けるということが分かっているのだろう。ゴワシ隊は走っていく。もともと盗賊と言うこともあり、速度はそれなりにある。敵が別動隊に気が付き、左に兵士を固めていく。…、少し早くないか。正面の突撃には突撃後に動いていたはず。彼らが突撃する少し前に前線の圧力を強める。先輩方もこの時は命令を聞いた。別動隊を通すために圧力をかける意味が分かったからだろう。
ゴワシ隊が突撃を敢行する。思ったよりも中に入っている。正面に比べて兵士を割くことができないし、百名と兵数を甘く見ているな。そして、正面ではなく横のため、敵の陣形が良く見える。中心に兵士を波状型に置いている。突撃した瞬間に突撃された兵士は逆らわずに下がっていき、後ろの予備兵とともに受け止める。その後、余った兵士が伸びた防衛陣を補修。重装備の兵士が突撃しようとしている。
すぐさまゴワシ隊に援軍を送る。運よく私の私兵2百の兵士が近くに居たこともよかった。何とか間に合いそうだ。おそらく、ワカトシも何かわかったはずだ。すり合わせをすれば打開できる。今は消耗を最小限に。楯兵を全面に出した。
前線の兵士たちも意図が分かったのだろう。無理やり突っ込まない。
よし、ここから盛り返す。




