4話
目を瞑っていると格子を叩く音が聞こえる。目を開けると皇太子と呼ばれた男が立っている。
皇太子は戦争の意味を考えているらしい。やはり上に立つ人間は違うなと思う。考えているのはその日に生きることのみを考えている。先のことを言うほどに考えていない。殿下は間者と思っていないらしい。あんなに目立つ間者もいないだろうと。本当にそうだろうな。そもそもここが国かどうかも知らないし。
驚いたことに殿下としては俺を仲間に引き入れたいと思っているらしい。この国ではそこまでの教育機関がないが、今までの話についていけるだけの教養があるということだ。勉強に意味がないわけではなく考える力を養えるから勉強していない人は難しいのだろうな。ここが中世と同じようであれば学力も高くないかもしれない。日本みたいな学校の制度がない限りは。
ただ、殿下に置かれている立場として簡単に容認するわけにはいかないらしい。容認すれば前例ができてしまうため慎重に事を進めていると。権力でどうにかしたような人生では続かない。それこそ昔から有名で迎え入れられた竹中半兵衛や諸葛孔明などは別だ。俺にはそのような才能はない。
この前例を覆すことができるのが戦争でもある。位が高い武将を倒せばそれだけで出世が可能だ。…立身出世とは言ってもいきなり戦とくればかなりしんどいな。この世界の中ではかなり背が大きい部類に入るらしい。背があるのはその分有利になる。重量を上げればそれなりの兵士になるということ。不思議とそういわれると悪い気はしない。自分で考えてきもいとは思うけど。
しかし、戦争に参加したこともないし、人を殺したこともない。訓練も受けてないし、教育として知識があるわけでもない。戦いに関してまるで素人の俺である。戦場で名をはせるようになるとは思えない。殿下は兵士として雇いたいらしい。本当にどうしてかと思うけど、…思った以上に時間はないようだ。この戦争が終われば殺される可能性が高いという。当然か…。
劣勢であるのは本当であるらしい。ともかく何も足りてないということである。とりあえず戦で何かをすると言えば戦に出るから食い扶持は…。この文句は誘導尋問か。
しかし、選択肢はない。何しろ、囚人として囚われている以上はこの状態を覆すほどの何かが必要であるということである。戦争というのはチャンスである。いきなりと言うことにはならないと思うが、それなりの戦果を残せば囚人としての扱いではなくなるだろう。神輿にするにしても囚人であれば意味がないからな。
皇太子に対しては戦争へ参加すると伝えた。わずかに手が震えているのを気が付いていなければいいが。皇太子はそのまま牢屋を出ていった。
まさか戦争に参加することになるとは。人生なんて簡単に行くわけない。しかし、俺の手の震えは止まっていた。信じがたいが、俺の後ろからは何かがいる。具体的に人がいるわけではないが、何かが俺を動かしている。どちらにしても今は寝ることしかできないか。わずかに豆ができている足をつつきながら、眠った。