3話~コーリン~
まさか、こんなことになるとは思わなかったの。兵卒として兵士に入ってからはそのままの生活が続くと思っていたのじゃ。兵士として戦い続けてそのまま戦場で死ぬ。それが今はどうかの。将軍という肩書がいつの間にか肩に乗っておる。重さはない。将軍と言うのはただの位で意味なんてないのだよ。
戦場では刻一刻と変わっていく状況を見ながら軍を進めていくのじゃが、将軍として上り詰めた時には戦術なんてものは頭になかったの。ゴリゴリの戦術家が様々な戦術を行っているが、儂には難しい注文だったし。だって、何も知らんからの。だが、戦場では雰囲気があって殺される雰囲気が充満している。他の雰囲気を読みながら戦場で駆けてみればうまくいったの。
戦術家からみたら驚くと思う。しかし、何かはあるのだ。その場に勝利や敗北だけでなく別の要素がの。それは政治的判断や個人の思いなどかもしれないが、それらが合わさって戦場という中で蠢いているのじゃ。儂から言わせればすべての戦場がそのちっけな戦術で決まるなんぞ、あり得ないと証言できる。だが、体現して見ろと言われたらできないけどの。
いつの間にか政治にも影響力を及ぶのが将軍というものだが、王はすでにこの世にいない者として考えているのじゃ。王が倒れてから宰相という名の裏方が政治を仕切るようになった。裏方なのでいろんなことを仕切るのはうまいが、表で何かをやるには度胸が足りないのよ。暗殺とかは平気で頼むくせに目の前に儂とかがおると急にしおらしくなる。これでは任せておけないと思ったからの。全く若いくせにの。
やり玉に挙げられたのが殿下じゃ。今は亡き王妃が高齢になって産んだ子供で頭脳や武術には適性を見せなかったの。本人は頑張っていたようじゃがあまりにも不憫で皆が止めさせた。しかし、人を見る目だけはあったようで、家庭教師も高名の家庭教師ではなく、実を教えてくれる家庭教師を指名しておった。だからこそ、の家庭教師は町に出ていろんなことを学ばせた方が良いと思ったのか、大半は外にいた。
だが、2年間も外で何かをしていれば次期王様なわけで目立つの。宰相はそれが気に食わなかったのだろう。何回も殿下を暗殺しようとしていたが、側近が事前に防いでいた。流石に次期王を暗殺なんてことはあってはならぬこと。儂もこの将軍という名を捨てて殿下を逃がすことにした。幸いにして軍の人間も3分の1程度は儂の方に来てくれた。戦力差はあるが、それでも勝てないと言われるほどではなかった。ただ、時間がない。宰相によって独占的な政治がおこなわれているからじゃ。
問題なのは兵数だけではなかったの。山城を取られたのが問題じゃ。今回の内戦に関して言えば、殿下は完全に負け戦であったため、山城に兵数を割くことができなかったからの。相手側の行動が早すぎたのだ。守備兵をどのように配置するかを決めるような段階で攻められては山城もすぐに落ちるからの。兵数も1万と多く、すぐに応援へ向かうこともできないということから撤退を決めた。山城の兵士たちも帰還させたのじゃ。儂の部下は泣いておった。
ここまでの人員をまとめるのに多くの時間を費やしたの。適材適所の配置というのは存在しない。すべての人員をうまく配置できることなんてないからじゃ。どんな時でも向いていない人を配置することはありうる。しかし、そこをうまく配置しないと反発が起きてしまう。ハーグに手伝ってもらっていたが、ようやく終わったの。
今回の会議に関して言えば、どうやら王の墓地に侵入者がいたということじゃ。儂にしてみれば間抜けである。しかし、あの墓地に侵入できるようなやつが途中で見つかるようなことをするとは思えないのじゃ。ならば、どのような男なのか。興味が湧いた。儂は会議に出席しない。
その男は凡庸であるようだが背は高い。個人的には興味を失った。紛れ込んだだけという印象じゃからの。次の日、レイからの申告で体が非常に強そうだと話を聞いた。レイには悪いことをしたと思っているのじゃ。儂を追ってきてくれていたし、彼女は期待に応えてくれるだろうと思っていた。しかし、彼女は儂の訓練に向いていない。訓練を経験させて諦めさせた。彼女には酷であっただろうが、分かってくれてまだ儂を慕っているの。
彼女の報告では牢屋の中で運動をしているらしい。筋力運動かの。この国ではその文化はない。そもそもそこまで余裕がない国なのだ。その前に剣の振り方を覚えさせる方が先である。人的な余裕もない中ではそのようにするしかなかった。しかし、すぐに切り替えて戦争の準備をするというのは割と骨があるやつかの…。