19話
帰還した時には、街は大きな喧噪に包まれていた。この騒ぎは盗賊百名を連れてきたからではないだろう。コーリン将軍は直ぐに殿下の元へ向かった。普通の兵士たちはコーリン将軍についていくわけにもいかないので、盗賊の兵士百人を連れて兵舎に顔を出す。兵舎に顔を出すと給料担当の兵士から金貨を渡される。盗賊の兵士たち百人と何かあるだろうと思っていたが、淡々と聴取を行っているようだ。事前にコーリン将軍が話を通していたのだろう。流れがスムーズである。
さてと、初めての給料だ。そのあと俺たち20名の兵士は休息を取らされた。戦場ばかりで休んでいなかったから強制的に休ませるとのこと。しかし、この世界には友達や家族もいないため1人で過ごすことになる。まあ、以前も1人でいたことが多いから変わらないか。寮として借りている家を綺麗にするところから始めるかな。家もすぐに任務で出たから、家も借りたそのままである。兵舎で食事を済ませてその日は兵舎で寝た。
翌日、まだ日の出とともに家に帰った。まずは掃除から。最低限、住める程度に綺麗にしておく必要がある。前の世界では花粉症で大変だったから埃でもくしゃみが出る可能性がある。口に布を巻きつけて掃除を開始した。雑巾を洗う水を持ってくるだけでも結構大変。長い間掃除していなかったのか、汚れが溜まっていた。どうしても長い間、行軍や任務に出ていると家を空けておく期間が長くなるため、埃や汚れも溜まりやすくなる。
休みながら行ったが、綺麗にするまで正午ぐらいまで時間がかかった。家具が少ないため掃除も早く終わった。あとはドアを開けておいて乾燥するのだが、買い物に行くため鍵を閉めた。今の気候は春に近く比較的過ごしやすい。布団も少なくて済むため出費を抑えられる。
街では多くの露店が立ち並ぶ。どちらかというと露店が多く、建物の中に店を構えているのは少数である。戦争が激化した場合に備えて露店で行っているのだろう。思ったよりも人が多くて驚いた。しかし、この通り以外は露店が開いていない。治安の問題もあるのか。巡回している兵士が多い。
昼食を食べようと思ったが、どこの露店も座るところがない。周りを見ると話しながら軽食をつまんでいる。どうやら、一般の人の昼は軽めに食べるらしい。いろいろ探してパンのような焼いたものを頼んだ。今後も作業があるかもしれないから、これだけでいいだろう。そのパンをもう一度油で揚げている。食べてみるとカレーパンみたいな弾力である。中には生の野菜が入っている。…見た目がカレーパンなだけに少し濃い味が良かったと思う。
ちなみにこのパンもどきが銅貨1枚。銀貨になるためには銅貨100枚が必要。銀貨が金貨になるためには100枚が必要である。金貨が1万円、銀貨が100円、銅貨が1円くらいである。今回もらった給料は全部で500枚あった。おそらく、将軍を討ち取った褒章もあるのだろう。金貨に関しては30枚しか持っていない。他は兵舎に預けている。出かける直前にコーリン将軍から指摘を受けたからだ。
1人暮らしであればおおよそ30枚ほどで生活必需品は揃うらしい。机などはほとんどの家庭で手作りしているとのことだ。布団が金貨10枚もするとは思わなかったが、物は非常に良い。手触りに満足しながら、一旦、家に帰宅した。
布団を床に置く。この国では青い染料が特産らしく、良い色の布団カバーがあった。深海のような青さに麻のような手触りが良く馴染む。思ったよりも良い買い物ができたな。布団カバーをかけた後、布団を置いてもう一度露店に行く。夕食を買いに行かねば。
兵舎のように風呂はない。兵舎には風呂があったのだ。風呂当番があったくらいなので、体を綺麗にするのが大事だということは分かっているのだろうな。ただ、今日は兵舎に行くような時間がない。この暗さであればすでに風呂の火は落としていると思う。仕方なく、布で水を濡らして体を拭いた。そういえば、周りを照らすろうそくなどがない。当たり前のように光があったからな。
月の光もなかなか入ってこない。少し怖いが今日は眠ろうか。
少し経っても眠ることができなかったため、槍の型の訓練を行って寝た。衛兵に何度も声掛けをされたのは非常に面倒くさかった。




