2話~レイ~
初めてあった男は大きかった。兵士の中でもこのような大きな男は見たことがない。しかし、この男は少し変わった雰囲気を持っている。このように背が高い割に肌は白いし、筋肉もそこまでない。私にも彼を倒すことができる。
そして、彼自身も抵抗することなく捕まっている。ここで抵抗したところで勝てるとは思っていなかったけど、あまりにも諦めが良いように思っている。彼は別に絶望しているわけでもないようだ。ハーグさんも捕まって動揺しないことに疑問を持っていた。間者という点ではあまり疑っていない。彼のような目立つ間者はいないだろうと思う。
ハーグさんの情報収集によって大まかな間者のリストはあるわけでその中に載っていない人間はおそらく大した間者でない、もしくは漏れているかどちらかだ。この男は周りを観察しているようだ。食料なども…。その様子は間者のように思うと言っても問題ないのだが、何かが違っているような気がする。
ハーグさんに呼ばれた。ケヴィンさんとは別行動をしながらあの男を見ておけということらしい。殿下が兵士として登用しようとしている以上は何も言うことができない。ならば、この男が害する男かどうか見極めようということである。行動を見るのはだいぶ先になるかと思っていたが、牢屋に入っている間も見張っておけということだ。
牢屋に入った彼の印象は焦りである。殿下と話していた時もそうだったが、何かこう実感が湧かないようにうだつの上がらない顔をしていた。どうしたのだろうか。あのような顔をしているのは初めて人を殺した兵士ぐらいしか見たことがない。1日経ったら彼は運動を始めている。これには少し驚いた。
この世界の兵士は鍛えるということをしない。鍛える時間があれば剣を振っている。この剣が振ることが無駄というわけではなく、その前に筋肉を鍛えることで体の動きが良くなっていくのだ。そのことをこの男は分かっている。もちろん、ハーグさんに伝えたが、よくわかっていなかった。先日の殿下の会談の時から男の見方が変わったように思っている。ハーグさんはこの男は無能ではないと思っているらしい。
少なくとも農民みたいな出身でなければ教育水準が低く受け答え自体が困難ではないと思っていたらしい。その通りだが、彼は無理しているようではなかった。高貴な人と話をしているとは思えないが。
当然、コーリン将軍の元へも情報が行くはずだ。コーリン将軍は訓練が厳しいということで有名だ。特に歩兵には厳しい訓練を課している。コーリン将軍自身が歩兵からのたたき上げであるということも関係しているが、それ以上に化け物のような体力があるばかりに体力が全てであると思っている。
実際には体力が大きな要素を秘めているのは分かっている。なぜかと言えば、遠征を行う際は行軍から始まる。その行軍が終わった後に戦争が始まるのだ。その行軍で疲れていてはいくら強い兵士でも簡単に倒されてしまう。だから、体力がある兵士というのは強いともいえる。コーリン将軍は体力に重きを置いている。
だから、その訓練は兵士を追い込む訓練となっていく。体力が付き始めるのは徐々に体力がなくなっていく後半だ。その後半のやり方を間違えれば多くの兵士が怪我することになるため、指導が難しい。コーリン将軍の隊で怪我した兵士の話は聞かない。もちろん、模擬戦などでは聞いたことがある。それ以外の訓練では聞いたことがない。訓練指導がうまいのだろうな。
私はコーリン将軍の隊には入ることができなかった。コーリン将軍は私の体では自分の隊に向かないと言っていた。女性だからというわけではなかった。単純に体力の限界が見えていたということだろう。所謂、歩兵として戦うには向かないと言われていたのだ。近衛兵や騎馬なら大丈夫だし、弓矢兵なら上へと行けると。女性でもできるのだと考えていた私にとっては最初の挫折だった。ただ、訓練には参加させてもらった。そこで道が途切れて、今は弓矢を中心に扱う兵士になった。
彼は何に向いているのだろうか。案外弓などでも面白いかもしれないと思ったが、弓矢兵は狙われる可能性が非常に高い。弓矢兵の周りには歩兵がいる。私は少し牢屋から離れて座った。