20話
山を越えるのは問題ない。俺たちの隊であれば。それこそイーリンと俺が帰ってきているのを分かっているのでナユダヤを信用できる。ナユダヤという名前は世襲らしく新たな王は全てナユダヤと名乗る。なので今のナユダヤは30代目らしい。そのことは置いて、どうやって説得するかということである。合図がどのように出るのか聞かされていないのだが、もし伝令である場合には非常に危険だ。数十人を残す手もあるが、それでもこの山まで来るのに時間がかかってしまう。伝令や鳩を出そうにも気が付かれないのが前提であるし、部族が鳩を使うことがないためばれてしまう可能性もある。鳩を使うなというのがコーリン将軍の指示だからな。
どちらにしてもイーリンには帰ってもらう。作戦を変更するにもまずは他の隊とのことも考えなければならないだろう。イーリンは直ぐに山を下山する。…、しかし、俺にはやることがないな。あの長髪の男が俺の前に立った。木の槍を渡してくる。剣を構えていきなり振ってくる。躱して距離を取るが攻撃的すぎる。槍を握りなおし長髪の男へ向かった。
地面に倒れている長髪の男を見ながらナユダヤが状況を説明する。もう少しでゲルラリア国とサエルガマズが戦闘に入るところまで来ているそうだ。…、フォン将軍が言った通り別動隊が村に着いたくらいに戦闘へ向かうというのは間違っていない。俺たちが少し遅れているくらいだがそれは誤差の範囲だろう。ナユダヤは少し考えながら方法がいくつかあるという。別動隊に部族が混ざること。これが一番簡単で手っ取り早い。山をわざわざ越えなくても普通に進軍できるのだからそれでもいいと思われる。そして、別動隊を部族とゲルラリア国別々に進軍する。連携という面では難しいもののまさか部族が来ると思ってもみないだろう。最後の方法…。
俺も考えていたことだが、最後の戦い方が一番良いと思っている。ゲルラリア国の難関ともいえるのは国門をどれだけ早く落とすかということである。そのためにどうするか。早く落とせば落とすほどいい。サエルガマズにとっても部族と連携されるのは予定外と思われる。…、ナユダヤが何か話をしているな。戦闘が始まる可能性があると。ここから国門へ行くには早くて2週間はかかる。
それから3日経ち兵士がやってきた。伝令兵1人だがよく頑張ったな。…今揉めていると。ナユダヤを見るが首を振っている。戦闘が始まりそうだというのにそこで揉めては意味がない。早く現地に行く方法もあるが、多くの兵士が行くためばれてしまう可能性がある。ばれても警戒しているため全てが本軍へ向かないという点では意味がある。しかし、それだけではな。実際に攻めないと意味がないだろう。
…それから2日経ったが何も連絡はない。さてと、決断するか。あまり待っていても仕方ない。伝令が来て戦闘が始まったと伝えられている。ナユダヤは俺を見ている。今まで戦記物をたくさん読んできた。間違いもあるだろうが、ある程度のところで決断しなくては勝機がなくなる。ナユダヤは頷き、号令をかけた。槍を握りながら伝令兵に伝える。伝令兵は青い顔をしながらもう一度確認したが、俺は再度同じことを言った。すぐに下山を始める。ナユダヤが声をかけてくるが、すでに判断し終えている。自分の責任くらいは取るさ。




