8話
…いや、これは入る隙間があるのか。
戦場並みの訓練が行われている。しかし、フォン将軍とコーリン将軍が本気で戦争しているような激しさだ。2人ともある意味、性格は似ている。似ている部分は相手を屈服させるところである。最後は力で押し切ろうとするところがそっくりだ。しかし、どちらが明確に強いというのはない。主流が違うからである。コーリン将軍は正攻法に正面からの突撃で切り開くが、フォン将軍は奇襲で敵を動揺させる。
両極端の2人ではあるが、歩兵からしっかりと訓練しているためすごく兵士が強い。コーリン将軍の兵士は1人1人が、フォン将軍は5人の結束が非常に強い。その2人が全力で運用している中で遊撃兵として突っ込むなんてことは非常に難しい。そもそもそのような隙間もないのだ。
しかし、戦場が動くにつれて反対に動くのが難しくなっていく。流れに逆らうのはそれ相応の力が必要である。だから前の戦いで兵士が全滅した。それだけの兵士の犠牲もある。いかに模擬戦とはその運用をしていいものなのか。今回は歩兵として参戦しているため、後ろで皆が固唾を飲んでいる。レイとイーリンが俺の肩を掴んだ。背中はセドリックとファウストが支えてくれている。どうやっても隙ができることがないのであれば俺が決めたタイミングで出ろということだろう。無茶を言っているが、今の状態では確かにどうにもならないような感じだな。
ただ、フォン将軍の本陣へ迫るにしても今の状態では難しい。完全に防備を固めているからな。コーリン将軍の攻勢が強まれば話は変わってくる。しかし、コーリン将軍の兵士たちも前に進めないでいる。…、別に遊軍であればそのことに固執しなくてもいいのではないか。敵を倒せばいいのであれば前線を崩すという手もある。ファウストとレイとセドリックに前線へ向かうように指示を出した。狙うは右側の弓矢兵を狙いに行く。味方の後ろからではなく敵の後ろ側から。おそらくフォン将軍も考えていないはずだ。少し3人も困惑していたがすぐに出発する。体の大きな兵士200人を選抜し、ここに残す。
あの800人がどのようになるのかで戦局が変わるはず。全く変わらなければ、本当にチャンスと思ったときに突撃しなくてはいけなくなる。
…、難なく右側に突撃している。その様子を見たコーリン将軍の兵士たちは右側に殺到しているらしい。よし、ここだ。俺とイーリンは兵士を率いて出発する。あの兵士800人に向けて援軍が来る。その援軍を阻止すれば必ず…、俺はそのまま止まった。何かがおかしい。敵本陣が僅かに揺れている。なんだろうか。左側を見ると100人にも満たない兵士たちが疾走している。あれはもしかして敵の奇襲部隊なのでは。…、迷っている暇はない。援軍を取り止めてきた道を戻る。
何とか間に合ったが、目の前にいるのはフォン将軍とその直下の兵士たち。すぐにイーリンと5人の兵士がコーリン将軍の本陣へ走る。…フォン将軍は少し意外そうにしながらも下馬することはない。完全に不利だが、ここを抑えきれば我々の勝利に違いない。木槍を持ち突撃する。前に出てきた3名の騎馬によって阻まれた。彼らは場所を変えながら、徐々に俺を外へ追いやる。くそ、その間に兵士たちを蹂躙するつもりか。槍に力を籠める。1人の兵士は驚いている。騎馬にとっていないはずの俺が力で押しているのであれば驚くだろう。
ただ、フォン将軍は顔色1つ変えていない。むしろ笑っているように思える。…、そういえば、他の兵士たちも良くやっているのではなく戦わされている。ここに援軍を来させるのが目的か。では、本軍は。正面から突撃を開始した。右に多く出ており、こちらに援軍を派遣すれば中央が開く。コーリン将軍がすぐに本陣を率いて中央を押し返そうとしている。
結果的には痛み分けとなり、お互い半数の兵士を減らした。一旦、ここで演習をストップした。結局何もできなかったと悔やむ結果に終わった。




