9話~コーリン③~
もう半刻経っても、ガーマスの本陣は見つからん。裏を取ろうとしているのは分かる。軍で一番怖いのは想定外の攻撃じゃ。軍は方向転換するだけでも多くの時間を要する。真っすぐ進むだけなら早いのじゃが、複雑な行動をすればするほど時間がかかっていく。現状の扇形の布陣も横からの攻撃と後ろからの攻撃にはかなり弱いの。前方に特化した形だからじゃ。
…伝令がガーマスの戦死を知らせてきたの。…、あの男は簡単に殺すことができる兵士ではないのじゃ。それこそ、生き残るために、殺すために何でもやるしの。ガーマスを打ち取ったのはワカトシ。なんとなく納得できる。ガーマスも兵士ではないような動きをするが、ワカトシもまだ兵士ではないからガーマスの意識から外れたのじゃろうか。対照的な兵士だからこそ討ち取ることができたのかもしれんの。
部下が全ての情報を集約して方向を考えて、ガーマスの軍勢の集結場所を確認した。咆哮には全く何もないの。戦い方からして儂らの軍を狙っていない。殿下を狙った奇襲戦術であったの。軍を無視して殿下の強襲を考えておらんかった。ケヴィンも軍を率いているため、殿下の防備は薄い。奇襲も成功しただろうと思われる。しかし、将軍が打ち取られては奇襲もままならん。
しかし、兵士の質が非常に悪いの。殿下にも伝令を送る。当分の間は夜盗や盗賊などに注意が必要だ。本当に生きるためになら何でも連中じゃから。あとはケヴィンや儂が帰ってから再度、防備を考える必要があるじゃろう。…はた迷惑な兵士達じゃ。
残念だが、ワカトシはここで休ませる。そもそもガーマスを討ち取ったことが評価されておる。実際に打ち取っているしの。その後の攻防での撤退戦で随分と兵士を引き付けているようじゃ。多くのかすり傷もあるし、体力的にも限界じゃろう。治療を受けたらすぐに寝てしまったようじゃ。かわいいところもあるの。
追撃戦は非常に難しいの。固まって動くところは追えるが、それ以外の単体で逃げているような兵士は追えん。一番集まっているところで千人くらいか…。これでは敵軍の勢力を残してしまうことになるが、仕方ないの。こちらもケヴィンが負けることを考えればこれ以上の追撃戦は無用じゃ。
追撃戦が終わったのは3日後のことじゃった。あとはケヴィンの方が気になるの。負傷兵を連れて帰還することにした。




