表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/301

1話~ケヴィン~

 その男は珍妙な服を着ていた。その男が変な服を着ているわけではない。服装が墓地に似合っていないのだ。服装的に黒が良いとされている墓地で藍色のジャケットを着るような人はこの国には存在しない。ただ、気になったのがこのジャケットである。この国ではジャケットは公的な場ではふさわしくないとされている。


 戦争が頻繁に起きているため、すぐに戦争に参加できないこの服は公的なものではなくカジュアルな服であるという印象だ。他の国では文官がこのジャケットを着ている国もある。あくまでもこの国ではと言うことだ。だからこそ、この男はおかしく映った。


 間者であるにしてはまるで意味がない。他の国であることをジャケットで示しているからだ。この国で公然とされていることをそのままやってのける間者はいない。だが、このような服を着ている男を野放しにすることもできなかった。墓地に入っていることも犯罪であるし。


 この墓地は歴代の王が入っている重要な墓であるが、次の王が墓地に来ることによって次の王に認められるという謂れを持っている由緒正しきお墓である。王によっては戦争が起きるたびにこの墓地に来ている王もいたらしい。現在、王は静養中であるが体調が思わしくない。その時に、時の政治家であるアミールが政権を牛耳っている。


 アミールの周りには彼の側近である者たちが名を連ねている。彼らは人柄がよい殿下を以前より嫌っていた。嫌っているものの人望も高い殿下にはかなうべくもなかった。殿下の周りには自然と多くの人間が集まってくる。集まる人間が多いとその中でも才能を持っている人間が集まってくる。その殿下を疎ましく思っていたのだ。


 アミールは陰気な正確なためあまり人望はなかった。ただ、彼は算術が得意であり、内政などの治世では存分に手腕を発揮している。ただ、うまくいかなくなるのは早かった。あまりに急増した政治の形であったため、徐々に離反者が出ている。本来なら殿下を亡き者にするはずだった作戦も頓挫している。


 殿下は2か月前に死んでいるはずだったが、何とかここまで生き延びることができている。個人的には殿下がそれほど優秀とは思っていない。むしろ、できないほうの人間である。しかし、彼は人に対して優しく人たらしとなって成長を続けた。殿下は様々な人を巻き込んでいって今の状態に至る。


 さてと、目の前の男をどうするかだ。


 国として犯罪者の扱い方は異なる。この国ではちゃんとした刑罰によって収監している。男の犯罪は不法侵入にあたるだろうが、不敬罪というのにもあたる。不敬罪という法律を作ることは禁止しているが、墓地に関しては特別法として認められている。王の就任の時だけではなく、その他の場合にも王が使用することがあるので特別法で制定することになった。本来は厳重な警備をしているので入ることなどできないのだが、この男は入ってしまっている。


 そもそも墓地ということも分かっていないようであるのに、間者であるかもしれないと疑う必要があるのが、残念で仕方ない。どちらにしても殿下に話を聞くしかない。レイにその場を任せて殿下の方に歩いていく。


 殿下は多くの書類を見ながら印鑑を押している。隣は宰相代理が座って話をしている。宰相は敵の方にいるため便宜上、宰相代理として就任している。名前はハーグ。高潔な人間で宰相から疎まれており、その宰相もその才を認めたほどの算術家であり、法にも詳しい。内政担当としては彼以外に適任の宰相はいないだろう。


 ハーグはこちらを見ながら眉を寄せている。彼は怒っているわけではない。そういう顔なんだ。俺が殿下に話をすることは少ないため、何があったのだと思っているだろう。殿下は書類から顔を上げてこちらを見ている。その場で膝をつき報告するが、聞こえにくいということで立たされた。


 殿下は少し考えた後、便宜上捕まえて話を聞こうということになる。宰相は殿下を止めていたが、殿下は首を振った。なんとなく、仲間にした方がいいとのことだ。難しいことを言う。しかし、墓地での殺害などは禁止されているので連れて帰るしかないのだが。いかに兵士の数が少ないとは言っても…。指示には従わないといけないが。


…ハーグは何を考えているのだろうか。兵士からメモを渡される。変わった部分があれば聞き出せだと。すでに変わっている。服装が普通ではないのだから。


 男を縄で縛る。抵抗する気は微塵もないみたいなので手首だけにしておく。出来るだけ自分の足で歩いてもらった方がこちらの負担も少ない。その男は思ったよりも大きかった。どうやって生活をしてきたのだろうか。ここまで背が高い男であれば兵士などにも推薦されているはずである。


 それにしても線が細い。なんというか、体の色が白いこともあるのか、全体的に弱そうだ。文官のような感じがしているが、周りを見ているようだとそこまででもないのか。殿下に何かをするような兆候は見られないが、注意はしておくべきだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ