66話~皇太子~
父の訃報を聞いたのはハグーを出た時。父は心臓が悪いと言われていたので覚悟はしていた。だからこそ、僕にも事前に話をしていた。アミール宰相のことはすでに父が把握しており、その後にどのようなことをするのかも話してくれていた。内乱になるまで発展するとは思っていなかったようだけど。
僕はアミール宰相のことを恨んではいない。おそらくアミール宰相は僕が頼りなくこの国を運営できるような王にならないと踏んで、内乱を起こして王になろうとしたと思う。間違っていない。僕にはそのような器がないことを知っている。父のように武力もないし、知略があるわけでもない。そして、王として冷徹な判断を下せることもない。
でも、父と同じように国民を大事に思っているし、兵士たちも同じように思っている。対してアミール宰相はどうだろうか。半分自分のことで頭が一杯。本来ならすでに降伏すべき時。アミール宰相は降伏せずに戦うことを選んだ。武将としての散り方としては正しいかもしれない。しかし、王を目指した者としては落第している。兵士のことを思うのであれば、この不毛な戦いをすぐに終結すべきである。
コーリン将軍、ハーグ総司令が若干遅いように感じたのは僕のこととアミール宰相のことを考えたのかもしれない。内乱というのは遺恨ができるから穏便に済ませたいというのが本音だ。もちろん、内乱者を処罰するのを躊躇うわけではない。首謀者以外の人間をどれだけ取り込むことができるかにかかっている。
少し経ってハーグから伝令が来た。すでに首都は近衛兵によって制圧されているということ。では、アミール宰相が生き残る道は戦いに勝つか、領土に帰って抵抗を続けるかということになった。領土に帰るのは行軍が長くなる上に、兵糧に心配と各領土での戦闘を考えれば不可能だろうね。残っている道は降伏のみか…。アミール宰相を許すつもりはないが、それでも長く仕えてきたアミール宰相を処断するのはしんどい。彼も国のためにかなり尽くしてくれていたのに。どこで間違ったかな。
その日の夜の星は赤く光っているように見えた。




