8話
行軍なんてあっさりしていた。漫画にあるような出陣式なんてない。国難に出陣式をしている暇なんてない。行軍が遅れれば遅れるほど兵士が多く死ぬ。そのことをコーリン将軍は知っている。それもそうだと思うけど、少し味気ない。5人組の中の1人である。本当に下の下である。
行軍して3日目。
思った通りのことが起きてしまった。別の隊の先輩方5人に呼ばれて行ってみれば殴るや蹴るの暴行を受けた。どうしても軍というのは禁欲になりがちだ。その禁欲が何日も続けば大変なストレスになるだろう。しかし、そのストレスのはけ口を中で求めてはいけないと思う。外に…。これが違反を起こす人の心理だろうな。
槍については持っていてもいいことになっていたので、殴られても蹴られてもその槍を手放すことはなかった。ただ、頭を殴られた後の記憶がない。何かしたのだろうと思う。周りには動かない5人の人間がいたのだから。
次の日、コーリン将軍より直々に命令が下され、1人で筋トレをする羽目に。体罰とかよりはましであるが、もう少し捻ってくれてもと思う。行軍中でもあるし、そこまで時間がかからずに俺のためにもなるということか。
筋トレを踏まえれば結果的に何も問題視されなかった。ただ、今回の戦で戦果を挙げなければ除隊となる。除隊になるということは今回の仲間内での暴行をかばえなくなるということで罪になると。正直、かばえなくなるというのはおかしいと思う。そもそも仲間での暴行事件はかばう必要がないと思っている。暴行事件などをなくすために規律があるのだから。
もう1つ思ったのはこの5人組をあえて俺に向けさせたのではないかということ。あえて向けさせたのであればコーリンという将軍はきれる将軍である。仲間内での話にすればいかようにも処罰できる。対外的にも問題を起こしていないので安全なわけである。ただ、ひどい目にあった。
行軍して5日目。
コーリン将軍が地図を見ながら陣地の話をしている。一兵卒の俺には関係のないことである。…だが、ご飯が非常に不味い。携帯食ばかりでは腹が減ってしまう。あまり食いすぎると有事の際に動けなくなるのだが、今は直ぐに戦争が起こるとは思えない。平地の戦ではなく山での戦である。
どうやら、この地を失うと拠点を作られる上に攻略が難しくなるということである。そもそもこの国の名前は?誰も教えてくれないのだけど。ある意味、徹底されているのだろうが。
大きい方に関してはちゃんと整備されている。様々な病原菌が湧くらしい。数年前に大きな戦があった時の大半が病死したと…。恐ろしいな。戦場で3割の兵士が死ねばその隊は瓦解すると言われているが、戦争で死ぬ人間よりも病死や餓死の死者数が多いのは怖い。第1次世界大戦もインフルエンザの発症で終わったともいわれているし。
落ち着けば、兵士たちも罠造りを手伝わされた。この罠づくりが思ったよりも重労働である。ゲームとかではぽちっとできるし、兵糧やお金を消費するだけだが、実際に行ってみるとしんどい。土を掘るだけで兵士が5人ほどはいるのだから、もっと大きな罠を作ろうとするなら大変な人出だろうな。しかし、周りの兵士はやたら周りの兵士を見ているが大丈夫なのか…。
夜になり、4人の仲間が帰ってこないことに気が付いた。体を拭いてくるといったはずだが。とりあえず、槍を持っていくか…。槍を持ちながら徘徊していると周りの兵士に驚かれるが、事情を説明すると納得する。…、兵士って案外治安が良くないのか。少し外れたところに4人組を発見した。周りの兵士は知らないと言っていたから、隠れて行動していたのだろう。軍の規模が5千と言っていたが、それでも気づかれないように行動するのは一種の才能だ。
4人は俺を見て驚いていた。気が付くと思っていなかったのか?普通は気が付くと思うのだが。兵士たちは俺の方を見ながら話し合っていた。出来れば早く戻ってもらいたいのだが、不味くても飯が待っているし。彼らはどうやら俺を誘っているらしい。才能があると…。どう考えてもついていけば日陰の生活を送る必要があるようだ。
こういっては何だが前の世界では日陰でも生活できた。お金を払えばある程度生活できるから。しかし、この世界ではなんとなく生活するのは難しいと思う。お金を使っているところもまだ見たことがないし。一応、お断りを入れたら刃物を出してくる。…俺の槍の方のリーチが長い。しかし、密偵であれば彼らはかなりの手練れだ。
逃げようとすると彼らは焦って追ってくる。…、どうしてだろうか?彼らは別にばれても問題ないのではないだろう。別の国で給金がもらえるはずだから。もしかして彼らは情報を売って戦争に参加しないつもりか…。戦争に参加しなければならない。あの殿下と呼ばれていた人間が俺のことを忘れてもそのほかの人は忘れてはくれないはずだ。
必死に逃げ回った結果、4人は打ち首に決まって陣の前にでかでかと置いてある。その姿を見てもどしてしまったが、兵士たちがやけに優しい声を俺にかけてきた。




