58話
体感ではかなりの時間が過ぎているが、時間にすれば僅か2~3分のことだろうと思っている。正直、どの兵士も強すぎて守るのが精いっぱいである。…、僅かに腕が痛い。浅く切られている。すでに守り切れてもいないか。どの兵士も自分に合った武器を使用している。周りにいる兵士たちが全て近距離の剣や短刀、短棒などの武器が中心。
距離を取ろうとしても周りは全て敵兵。守る以外に方法はない。良く考えている。しかし、敵兵もそこまで余裕があるわけではないと思っている。数万の中の百の兵士である。そのまま突撃されれば壊滅するのだから、時間との戦いである。それまで俺が死ななければいいだけのこと。
少し体が大きな兵士が出てくる。周りの敵兵は自然と彼に前を開けているようだ。…、嫌な予感が。その瞬間に彼の大刀が目の前に来た。間一髪、槍で受けたが、足がふらつき、手が痺れている。なんて重さだ。周りの兵士が一斉に討ち取ろうとするが、周りに弓矢が突き刺さる。周りの兵士も弓矢を防いでいる。ギュンター帝国の軍の特徴である騎弓兵である。騎馬に乗りながら弓矢を放つという曲芸をやってのける兵士たちだ。周りには騎兵が守りを固めている。
その隙で1人の兵士の首に槍を刺す。ようやく1人…。倒すことができたが、そこまでだった。大きな兵士が入ってきたせいで彼の一撃を吸収するのに守りに時間がとられる。分かっていてもなかなか避けることができない上に、周りの兵士も攻撃する。すでに全身傷だらけである。緊張が途切れればその場で倒れてしまう。
そこでイーリンが叫ぶ声が聞こえた。敵兵が素早く彼の方向へ動く。なんとしても俺を倒す気なのか。騎弓兵とその周りを囲む騎兵が突撃してきた。流石に兵数が多くなっており、敵兵も守り切れなくなってきたようだ。これで守る必要がなくなった。大きな男と俺との間に僅かに空間ができる。全身を叱咤し、彼に向けて槍を突きだした。その槍を弾き、彼は俺の胴体を切ろうとする。速くない。避けることができると思っていたが、足が動かない。
もしかして、自分が遅くなって走馬灯のようなことになっているのか。槍も戻ってこない。彼の大刀が横切って、意識が途絶えた。




