52話
クレアは負傷者のリストを作成している。隊がまだ少ないとはいえ、戦いが万を超えている以上は直ぐに死傷者が増える可能性がある。どんな勝ち方をしても負傷者は必ず出る。そして、今回の戦いの後はそのまま首都での決戦につながっていくのだ。兵士の消耗を少なくして進むのが大事であるが、今回のように優秀な貴族が出てくると話が違ってくる。
イーリンも少し考えているようだ。正直、俺たちの隊にはまだ作戦というものはない。敵の弱いところに突撃。それだけである。弱いところを見つけて突撃するのも作戦ではあるのだが、あくまでも他の兵士がいての話。単体ではまだ弱いということだ。戦いの中で学ぶことは多いのだが、独自の発想が生まれるのも下地、いわゆる基本があってのことである。クレアの兵士と近衛兵、そしてコーリン将軍の兵士の3種が混ざっているため連携もかなり難しいはずだが、今のところ問題なくやれている。
少し悩んでいるとクレアが隣に座る。話を聞いていれば彼女も運用の仕方を考えていたらしい。そうだろうな。彼女は俺よりも周りを見る力がある。少し前に考えていたことを実行するときが来たのかもしれない。予想ではワカトシ隊と位置付けられている隊の考え方が変わる可能性もある。ただ、どの兵士も作戦には従っている。だから、問題ない。
しゃべるのが下手なため文字で書いてみる。2人は少し驚いていた。大将は俺だが、副将としてクレアとイーリンを任命し、その2隊は独立して隊を運用できるということだ。まだ、3百人ほどの隊でここまで細分化する必要はないと思っている。ただ、分けることによって早くから兵士たちに意識づけと今後、彼らに主軸を担ってもらうということを明言しておくべきだと思った。
2人とも少し考えていたが、クレアは保留。イーリンは可とした。イーリンもクレアが賛成しなければ、独立しての運用は考えないということらしい。当然のことだろう。個人的にはクレアだけでも良かった。クレアは後方で、イーリンが前線で戦うことになる。そうなれば前線が2人になるため、とりあえずの運用は副将のイーリンが俺の代わりに指揮を執るということでもよかった。ただ、そうしてしまうと今とあまり変わらない。イーリンもそれを分かってのことだろう。
運用上では問題ないとしても、後方は別の兵士に任せたい。クレアも俺やイーリンに負けるだけでかなりの剣の使い手なのだ。最前線に行く必要はないにしても、前線近くでの副将的なポジションが似合っている。後方はそれこそ武力が低く、智謀が深い兵士に任せたい。
そう簡単に兵士は育たないし、俺がその役割をすればいいのだろうが、勉強は少しな…。書類とかは大丈夫だが、咄嗟の判断には自信がない。それこそ、前線での勘はまだマシな方。…、さてと、コーリン将軍に報告しよう。兵の運用を極端に変える場合は報告することになっている。
今まで何も言われていないから大丈夫だろうが、今は機嫌が悪いだろうな。




