6話~オルタ~
強い人間は強い。当たり前のことだ。昔から力が強かったためどのような剣術にも勝てた。だから、自分は最強であると思っていたが、軍に入って考えが変わった。所詮、片田舎の大将である。本当に世の中を知らなかった。だから、必死に練習した。今までこんなに練習したことなんてなかった。
ようやく1人前に認められた。前線にも出るようになったし、武功も上げることができるようになった。コーリン将軍の指導の賜物である。感謝してもしきれないほどである。この武力のおかげで故郷の家族の家の借金は全て完済することができた。
ようやくみんなに認められたころにその男は入ってきた。完全に線が細く兵士として何もやってきていないし、まだ鍛えてもいない男だ。試合ということで辞退しようかと思っていた。未熟なので手加減ができない。相手を死なせることがあるからだ。力は適切に使う。仲間に向けるものではないと思っている。
コーリン将軍は俺に向かってやるように命令した。…、反対に考えてみれば彼は俺の剣を受けるだけの力があるということか。もしくは技が…。しかし、彼は槍を持ちながら俺のほうを見て驚いているぞ。どうして、そこまでのことが。剣に力を込めてしまったが、深呼吸を行う。少し空気を入れることでしっかりと集中できるように態勢が整う。
剣の切れは今まで一番良いと自負できるが、目の前の男には全く通じない。あの細い体でどうやって避けることができるのだ。時折、剣に触る。その槍はどこまでも柔らかい。だからこそ、俺の剣に埋もれている。そう思っていたが、俺は肩に槍を受けて倒れた。
ああ、そうか。これが壁なのか。何もできないような敵。コーリン将軍は肩を叩いた。その背中は焼けるように暖かい熱気を放っている。今まで本気ではなかったのだろう。俺はコーリン将軍を本気にできるほどに強くなっていない。
同僚が励ましてくれたが落ち込んでなどいなかった。当たり前だ。才能があるのは一部であるし、あそこまで強烈な才能を持っている人間などほとんど存在しない。ここで出会えたのは本当に良かった。止まっていた足がようやく動き出す。そして、見えない壁が見えるようになった。ワカトシと言ったな。壁になってくれて本当にありがとう。そして、待っていろよ。追いつくからな。




