46話~クレア~
攻めてきたのはギュンター帝国。山を隔てた向こうに広がる国である。長槍が有名であるけど、それ以外に話を聞いたことがない。近くにいる国でないからである。そもそも、周りに2つの国がある先の国なのだ。もちろん、国境は隣だが、険しい山を登って下ってこないといけないため、現実的に難しいのだ。今回の戦いで遠征してきた兵士は専用の訓練を受けている。
しかし、そこまでしてきてもマットに私たちがいたために意味がなくなった。マットを占領して侵略の足掛かりを掴もうとしたのだろうけど、兵糧もいずれ尽きるし、コーリン将軍とハーグ総司令の6千の兵士が近くに居たのは非常に不運だった。カーソンの兵士達ならともかく、2人の軍ではそれなりの損害が出る。このまま戦ったとしてもマットを攻略するまでにならない。
コーリン将軍もよく気付いたと思う。戦争の中で敵の大将に合図を送るなんて普通はしないからコーリン将軍でよかったと思う。ハーグ総司令であれば弱いところから攻めたはずである。ただ、コーリン将軍も少し困惑している。今までにない経験だろうし。私が呼ばれたのはよくわかる。こういった話し合いはコーリン将軍苦手なので。しかし、イーリンかワカトシがいてくれたらもう少し安心できるのだけどね。
私はとりあえずモルダー領主に伝令を送った。今日の戦いで奇襲を仕掛ける予定であったから今の状況が分かっていないだろうし。敵の大将はファウストというらしい。将軍の1人ということだろうが、信頼は厚いのだろう。あの山を越えてくるくらいだし。
敵の要求は兵士の治療と安全についてである。分かっていたことだが、そこまで無茶な要求はしていない。こちらとしては兵数が欲しい。この国の内乱に出陣するのはおかしいと思っているが、彼らの力を借りたいというのがコーリン将軍である。内乱に参加する見返りは求めない、ということは明記される。流石に領土の割譲とか言われてもどうにもならないし、ファウストも分かっているのだろう。私たちに金がないことも。
ファウストもその要求で問題ないようだ。作戦や軍の運用、兵士の練度など将来的に考えれば必要な情報である。僅かにコーリン将軍とファウストの目が合ったが、お互い何も言わなかった。
コーリン将軍は少し風に当たっている。思うところがあるかもしれない。敵軍に頼るなどと。仕方ないこととはいえ、コーリン将軍の信念からは考えられないことなのかもしれない。私が隊に帰ろうとするとファウストに呼び止められた。ワカトシに会いたいと言っている。どうしたものか…。ただ、あの突撃でワカトシが多くの兵士を討ち取っているから会わせるべきかもしれない。今後の戦いも一緒に出陣するのであればわだかまりはない方がいい。私はファウストを連れて隊に戻った。




