第5話:準備
「ねぇ、ゆーちゃん今度デートしようよ?」
いつもの公園でいつものように話をしていると、葵が思いがけないことを言い出した。
「デ、デート?」
「だ、だめ…?」
どこか不安そうな瞳で俺の顔をチラチラ見ている。
「だめじゃないけど…どこに?」
「う〜ん…動物園とか水族館がいいな?」
「ん? 遊園地じゃなくていいのか?」
このくらいの歳の子は、遊園地が大好きなはずなんだけど、どうしてだろう?
「遊園地は……乗れないのとかあるでしょ?」
あぁ、年齢制限とか身長制限とかあるからか、
でも…どこか不自然な感じがしたが、何が不自然か分からなかった。
「…あぁ、そうだな。っていうか、俺でいいのか?」
「…うん」
葵さんすごく赤い顔になってますよ?
「じゃあ……動物園でいいか?」
「うん!」
葵は嬉しそうな満面の笑みを浮かべた。
「でも、いつ行くんだ?」
葵とは週1回この公園でしか会っていない。
「それは今度会う時までに、許可もらっとくね」
許可ってなんだろう?
高校生の俺と動物園に行くから許可をもらうんだろうか…
っていうか普通それ言ったら反対されるから!
「な、なんて言って許可もらうんだ?」
「ん? 友達と遊びに行くからって」
うん、間違っちゃいないね。ってそれで本当にいいのか?
後で知られて怒られたりしないだろうな?
週1回しか会えなかったり、遊びに行くのに許可もらったりって、
もしかして、葵は金持ちの家の子だったりするのかな。
とりあえずバイトでもしてデート資金を稼がなくては。
などと考えていると。
「ゆーちゃん? どうしたの?」
不安そうな顔で葵が俺の顔を覗き込んでいた。
「あ、あぁ、大丈夫、大丈夫」
「ふ〜ん」
…
次の週、開口一番に葵から報告があった。
「あのね、今度の日曜日ならいいって」
「何が?」
「もう! デートの日だよ!」
と葵が口を尖らせて言う。
「冗談だよ」
そう言ってからかうように笑うと、葵も頬を赤らめながら笑顔になっていた。
「何着ていこうかなー」と葵ははしゃいでいる。
「ね、ゆーちゃんはどんな服が好き?」
「は? どんな服って言われても困るよ」
10歳くらいの娘は、どんな服着るんだ?
俺には未知なる領域だから返答に困っていると、
「ミニスカート好き?」
その微妙な質問はなに!
好きと答えるのもアレだし、嫌いというのも何か違うような…
「じゃあ体操服とブルマは?」
「まてまて、話しが違う方向に走ってないか?」
っていうか、いまどきブルマってあるの?
存在は知ってるけど、見たことはないぞ?
「そういうのが好きな人が居るって本で読んだよ?」
「いやいやいや、俺にそんな趣味ないから!」
どんな本読んでるんだよ!
「じゃあスクール水着?」
「だぁかぁらぁ、そんな趣味ねぇよ!」
動物園にスクール水着で行ったら、それはただの変態だから!
「っていうか動物園にそんな格好で行くのも変だろ? 普通の格好でいいよ」
「普通ってなによぉ?」
「頼むから俺にそんなこと聞かないでくれ…」
「まぁ、いっかぁ」
いのかよ! いいなら聞くなよ!
と突っ込む元気はなかった。完全にからかわれてるな…
「日曜日は、ここで待ち合わせたほうがいいか?
「うーん…駅とかのほうがいいかな」
「じゃあ、10時にT駅な?」
「うん!」
T駅はこの公園から1番近い駅だから、そこを指定した。