第4話:不安な夜
葵とは週に1度しか逢えない。
そのことについて聞いてみたことがあるけど、
家が厳しくて、なかなか遊びに出られないということだった。
でも家が厳しいなら、夜の10時に公園に居ることは、矛盾するのだが…
そのことを葵に言うと
「お家をね、抜け出してくるからだよ」
っと予想外の答えが返ってきた…
「抜け出すっておまえ…」
「あ、でもね水曜日はお家には誰もいないから、抜け出すっていうのは間違ってるかな?」
なんで水曜日は誰も居ないんだろう? 仕事の都合なのか、
それにしても両親とも居ないって言うのに違和感がある。
それに誰も居ないなら公園に来る必要も無いのではないか。
そこである提案をしてみる。
「なぁ、葵」
「なぁに?」
「家に誰も居ないならさ、公園で逢わなくてもよくないか?」
「え?」
「いや、誰もいないなら葵の家に行って……」
「ダメ!」
「……え?」
「だってお家に居たら、ゆーちゃんにも逢えなかったんだよ?」
そう言って葵は俯いてしまった。
つまり公園で出逢ったから、公園で逢いたいということだろうか?
事情は分からないが、あれだけ強く拒否するのなら、
触れて欲しくないことがあるんだと感じたので、優しく声をかける。。
「それも、そうだな」
葵は何処か寂しげで、儚げに見えた。
…
そして現在時刻は夜の10時、また今日もいつもの公園で葵が来るのを待っている。
10分過ぎ、20分過ぎても、まだ葵は来ない。
俺は何故だか言い知れぬ不安を覚えて、葵が来るであろう方角に顔を向けて立っていた。
葵は携帯を持っていないということで、俺の携帯番号だけ教えてあるので、
携帯に連絡が来てないか確認してみるが、連絡は来ていない。
10時も40分になる頃、ようやく公園の入り口の向こうに、
葵の姿が見えたときは、安堵のため息をついていた。
近づいて来た葵は、幾分青白い顔をしていたが、声はいつものトーンだった。
「ごめん、待ったぁ?」
「そりゃ…待ったけど」
葵は少し睨むと言った。
「そういう時は、待ってないって言うんじゃないの?」
「おまえな、それはデートの待ち合わせの法則だよ」
デートという言葉に反応したのか、幾分葵の声のトーンが上がる。
「デートかぁ…ね、ゆーちゃんはデートしたことある?」
「…あるよ」
「え? それって人間と?」
「…殴られたいのか?」
と拳骨の真似をすると、慌てて少し離れて、あかんべーをする葵。
ちょっと拗ねているように見えるけど気のせいか?
「ゆーちゃん…」
少し小声でそう言って、もじもじしている。
「か、彼女とか…いるの?」
「ん? いないよ、今はね」
すると葵の顔が、ぱぁっと明るくなる。
「今はってことは、いたことあるんだね」
「あぁ、いたよ、葵と初めて逢った日に振られたけどな」
「だからあの時元気なかったんだね」
「ほっとけー」
「つらい時は泣いていいんだよ?」
葵は俺の頭を撫でながら、いつもと違う優しい声で言った。
それは俺にというより、自分自身に言い聞かせているように聞こえた。
「あたしには聞いてくれないの?」
「何を?」
「何をって…デートしたことあるかとか」
「10歳の子が、デートしたことあるとは思えないし…」
「むぅ、気にならない?」
「別に」
「ゆーちゃんのばかぁ!」
あれ? なんで怒られたんだろう?
葵は、ぷーっと頬を膨らまして、拗ねちゃったし。
「あー、葵さん?」
「…」
「かわいい葵さん?」
「…! か、かわいい…?」
反応して呟くようにもらした言葉を逃さない。
「ああ、かわいいよ」
葵は、今度は顔を真っ赤にして俯いた。
怒ったり照れたり忙しいやつだな。
「それでデートしたことあるのか?」
「ないよ」
「やっぱりないんじゃないか!」
それなら彼氏もいるわけ無いよな。
10歳で彼氏っていうのもなんか変だけどな。
「で、でもチューはしたことあるよ」
「…えっ! だ、誰と…?」
「誰とって…ゆーちゃんとじゃない…」
そうでした、頬にチューされたんでした。
思い出したら赤くなっちゃったよ。
「忘れてたの…?」
「えーと…はい…」
「じゃあ忘れないように口にチューする?」
「ダメだから!」
俺、捕まるから、それ!