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  作者: Satch
3/12

第3話:無邪気な仮面

葵に逢えるのは1週間に1度だけということで、水曜日の夜の10時に逢うということだけ決めて、

再会の夜を締めくくった。


それから毎週水曜日に葵と逢い、他愛もない会話をする日々が始まった。


そんなある日、俺が公園に行くと、葵は先に来ていたが、思いつめた顔でベンチに座っている。


いつもと違う雰囲気の彼女に、俺は戸惑いながらも声を掛けた。


「葵?」


一瞬ビクッっと体を震わせて、今にも泣き出しそうな顔を向けてきて、

おもむろに立ち上がったかと思うと、俺の胸に顔を埋めるように抱きついてきた。


「ちょ……葵?どうした?」


「うわああん」


葵は何も言わず俺の胸で泣き出して、嗚咽を漏らしている。



どれくらい時間が経ったろう?

ずいぶん長い時間のようだが、2、3分くらいだろうか、泣きじゃくる葵を静かに抱きしめていた。


少しだけ落ち着いた頃、俺は葵を抱きかかえてベンチに座わる。


俺の膝の上で泣く葵は、小さな子供のようだ。

いや10歳だから子供なんだけれども……


「すぅすぅ」


しばらくそうしていると、いつの間にか葵は眠っていた。


「こいつ……泣き疲れて寝ちまったか」


いつもは生意気な事ばかり言うが、寝てる姿は純真無垢な少女だった。


彼女の寝顔を見つめながら頭を撫でてやると、

くすぐったいのか少し身動きしたが、起きる気配はなかった。

そこでふとこんな夜の公園で眠る少女の頭を撫でていたら、傍目には変態に映らないだろうか?

慌てて周囲を見回すが、周りに人の気配は無い。


「えっち」


「え? ちょ! おまっ! 何言ってんだよ!」


慌てて周囲を見回したので、振動で起きちまったか…


「少女を抱きしめたり、頭撫でたりって、えっちな事でしょ?」


でしょ?って小首を傾げて可愛く言われると、そうなのかなぁ…


「って、違う違う!」


危うく納得するところだったよ! 危ない、危ない。


「何が危ないの?」


「な、なんでもない!」


また思考が口から出てたのか……とガックリ項垂れる。


「っていうか、えっちな気持ちなんて、これっぽっちも無いから!」


「ふ〜ん」と、分かったのか分からないのか、良く分からない返事をしている。

そりゃこの歳で分かる筈もないよな。


「そんなことより、何で泣いてたんだ?」


と言って何気なく葵に目を向けて絶句する。

また彼女の瞳に陰りが射し、涙をいっぱいに貯めていたからだ。


「あ、葵? む、無理に言わなくていいからな」


慌ててそう言うと、一筋だけ涙を流し、俯いてしまった。

時折、耐えているのか、肩が小刻みに震えている。


俺は何か言おうと思うが、適当な言葉が見つからず、ただ黙ってそばに居ることしか出来なかった。

しばらくすると、赤い目をした葵はニコっと笑った。


「泣くと思った? ゆーちゃん引っかかりやすいねぇ」


いやいやいや! 赤い目で言われても説得力ないから!


「何があったか分からないけど元気だせよ?」


「う、うん」


そこで後悔する、事情も知らずに適当な励ましは相手を傷つけるだけだと…

葵は腕の中から出て俺の前に立つと、しゅんと項垂れる俺の頭を撫でて言った


「ありがとー、ゆーちゃんの励ましは嬉しい」


「これじゃ、どっちが大人だか分からないな…」


「葵は大人だよ」


「え? このぺったんこな胸が大人?」


と葵の胸を指差して言うと


「な! ぺったんこって言うな! それにゆーちゃんだって大人じゃないじゃん!」


「あはは…」


俺が苦笑いすると、葵はぷーと顔を膨らますと、背中を向けるようにベンチに座った。


「そんなに怒るなよ」


「…」


葵は肩を小刻みに震わせている。な、泣いてるのかな…


「む、胸はそのうち大きくなるからさ」


「…」


「なぁって…」


「ぷっ、あははは」


我慢しきれなくなったように笑う葵を、俺は唖然と見つめる。


「今度はほんとに引っかかったね」


くっ! 葵のほうが1枚上手だった…

10歳の少女の振り回される俺っていったい…


この時、俺は葵の無邪気な仮面の下にある本当の彼女の姿に、

気づいてやることは出来なかった。

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