第2話:待ち人
第1話を少し加筆修正しました。
翌日、俺は葵と逢った公園に来ていた。
何故だか葵と交わす何気ない会話や笑顔に癒されていたのか、
人の温もりを感じたかったのかもしれない。
既に夜の10時を過ぎているが、葵がくる様子もない。
俺は公園の入り口ばかりが気になって、ソワソワと落ち着かなかった。
昨日逢ったのは単なる偶然だったのだろうか?
たまたまあの時間だったのだろうか?
いや、この時間に待っていればまた会えるような、そんな予感めいたものを感じていた。
だがしかし1時間待っても、葵は来る様子もなかった。
「はぁ…」
俺はため息を1つつき落胆の色を隠せないまま公園を後にした。
次の日も、また次の日も同じ時間に待っていたが葵は来なかった…
しかしその様子を窺っている視線に、裕二は気づいていなかった。
そして葵に出会ってから、ちょうど1週間後の今日、俺は凝りもせず葵を待っていた。
1つ違うことは、今日逢えなかったら、これで最後にしようと決めていたことだった。
夜も10時半になろうとする頃、俺は人の気配を感じて、
こころなしか俯いていた顔を上げると、そこには待ちわびた顔があった。
「ゆーちゃん…」
黄色のパジャマに、ピンク色のカーディガンを羽織っている葵は呆然と固まっている。
「おい、どうした?」
いつまでも固まっている葵に、たまらずに声をかけた。
「また…逢えるとは思ってなかったから、びっくりしたよぉ」
しばらく固まっていた葵は、嬉しそうな笑顔を見せて言った。
「なんとなく葵に逢いたくて待ってたんだ」
葵は一瞬だけ驚いた顔をして、またすぐに元の笑顔に戻った。
「あはっ、葵に惚れちゃった?」
「なっ! そんなわけあるかぁ!」
思わず頬が赤くなってしまった。
「赤くなっちゃって、ゆーちゃん、かわいー」
「赤くなってねぇよ! つーかかわいーって言うな!」
すると葵はとことこと近寄ってくる。
「ありがとう、あたしもゆーちゃん好きかも、チュ」
な! 頬にチューしやがったぁ!
あたしもってなんだ! 俺は好きとは言ってないぞ!
しかも好きかもって、かもって、なんやねん!
「な! なにすんだぁ!」
「く、唇のほうが…良かった?」
もじもじと顔を赤くして小さな声で言ってるし、っていうか恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。
「く、唇がいいとかそういう話じゃねぇよ!」
やばい俺までどもっちゃったよ…
「じゃあ、なんなのよぉ」
少し拗ねた顔で口を尖らせる葵。その顔も可愛らしい…
ってそんなのは今はどうでもいいんだよ!
「なんでチ、チューしたのかって事だよ!」
「それは…お礼だよ、毎日待っててくれたんでしょ?」
「おまっ! なんで知ってんだよ!?」
「そうなんじゃないかなー? って気がしたから」
気がしたからって、本当にコイツはエスパーじゃないのか?
それとも人間ではないのだろうか?と思うが、さっきの頬に触れた感触は柔らかくて温かかった……
って俺は何を考えとんねん! ってなんで関西弁?
「関西弁がどうかしたの?」
不思議そうに葵が、俺の顔を覗き込んでいた。
え! や、やっぱりエスパー…
「なんか、ゆーちゃんぶつぶつ言ってたよ?」
な! 思考が口から出てたのか…とガックリ項垂れる。
「毎日待っててくれたから、今日も会えたんだよね?」
「ま、まぁ、そうかな」
10歳(推定)にしては、なかなか鋭いな。
「そんなことより、なんで葵を待っててくれたの?」
「なんでって…なんとなくって言ったじゃん」
「なんとなくってなぁに?」
なんでそんなに拘るんだろう?
「なんとなくって言ったらなんとなくだよ!」
「なにそれぇ、そんなの全然わかんなぁい」
ぶっきらぼうに答える俺に、口を尖らせて拗ねる葵。
笑顔や、拗ねた顔は可愛いと思うが、それがどういう感情なのか、
はっきり分かっていなかったので、明確に答えてやることはできなかった。
「っていうか、葵って今いくつだ?」
「れでぃに歳を聞かないでよ!」
ぷいっと顔背けていらっしゃいますが…
「英語の発音おかしいから!」
「じゃあ、ゆーちゃんはいくつなの?」
頬を膨らましたまま、俺に問いかける。
「俺か? 俺は17だ」
「へぇ…」
へぇ…ってそれだけ?
「あたしより7歳年上だね…おじさん!」
そういってまたぷいっと顔を背ける。
「お、おじ…さん」
このガキどうしてくれようか?
「お仕置きじゃ!」
葵のがら空きの脇腹をくすぐる。
「きゃはは、やめてよぉ」
身をよじって笑い転げながら、葵が抗議の声をもらす。
「どうしよっかな〜?」
「きゃははは、も、もう、謝るから許して…」
瞳を潤ませて言われるとヤバイっす。
しょうがないので止めてやる。
「あ、あたしは10歳だよ」
俺の手を警戒しながら、ようやく歳を言ったが、10歳…見た目通りか。
「まだおこちゃまだな〜」
「おこちゃまじゃないもん!」
また拗ねた顔でぷいっと横向いてしまった。