第九十八話 いよいよ作業開始です
作業開始は一月後。それまでにコミュレットでは新規の予約を断り、一時的な休業へ向けた準備を整える手筈になっていた。それと同時に創業500年記念パーティーの準備も同時に行うらしい。
本当は使っていない部屋から順次作業を進めても良かったのだが、従業員すら驚かせたいとジュグレさんから止められたのだ。
俺の方もコミュレットだけに集中できないので朝から昼過ぎのキリが良い所までとして、午後からは店を開くことにした。これだと他のお客に迷惑が掛からないのではと思ったからだ。
打ち合わせから一月。いよいよ今日から作業に入る。店の前には15時から開店しますと張り紙をしてルーバとレーちゃんを連れてコミュレットにやって来た。
お店がお休みのせいか正面は完全に封鎖されていて、お休みと再開の日時が書かれた張り紙がしてあった。
さて、何処から入れば良いのだろうと考えていたところに馬車が停まり、ジュグレさんが従業員用の通用口まで案内してくれた。
明日からは直接こちらに来よう……
一番初めに選んだ部屋は大広間。記念パーティーが開かれる会場にもなる場所だ。
「レーちゃん。お願ね」
『任せるのなの~~』
今回は事前にレーちゃんにお願いをしてある。とにかく広くて大きい、そして数が有るからだ。
特に大広間は天井も高くシャンデリアの数も多く一人では無理だからね。
レーちゃんが大広間を飛び回るとキラキラと部屋中が光り出し、やはりダイヤモンドダストを見ているように綺麗だ。実家に戻っていた時に何度も見て居るが、感動するものは感動する。
キラキラが治まった後の大広間は置かれている装飾品までもが新品だ。あえて新品という表現が相応しいからだ。靴で着いた床の傷が一つも残っていない。窓からの光に反射するシャンデリアの輝くすらまばゆい。
『ご主人様~ 終わったなの~』
「うん。ありがとう。凄く綺麗になったよ。レーちゃんは凄いね」
『レーちゃん凄いなの~~』
「この後もお願いできるかな?」
『レーちゃんいっぱいお願いされるのなの~』
「ありがとう。よろしく頼むね」
『ハイ!なの~~』
ルーバには作業中にジュグレさんが入って来ないように監視をして貰っている。
作業が終わった事から広間の外で待ってもらっているジュグレさんを呼んで仕上がりを確認してもらった。気になる所があればそこだけやり直さなければいけないからだ。お客に満足してもらって初めて仕事は完了するからな。って、本当はジュグレさんの驚く顔が見たいだけなんだけど……
広間に入った瞬間、これでもかと言うほどに目が開き、半開きになっている口は呼吸すら忘れているんじゃないかと心配になるくらい固まったジュグレさん。
うんうん。この反応が見たかったんだよね。
「……これは凄い。私がまだ子供だった頃でもこんなに綺麗では無かった気がする……。しかも、こんな短時間で……」
「えっと…… しっかり見て頂いて、気になる所とかやり直して欲しい箇所があれば言ってください」
「とんでもない。十分過ぎるほどだ。まさかここまで復元できるとは……」
「では大広間はこれで終わりにしますが良いですか?」
「もちろんだ。記念パーティーが楽しみになってきたぞ!」
「……」
「あっ、すまん。つい興奮して言葉使いが雑になったな……」
「……いえ、大丈夫です。その方が俺も気楽に話が出来ます」
「そうか。ならこれからは気楽に話させてもらう事にするぞ。さぁ~次の部屋だ。次の部屋に移動するぞ」
なんだか楽しそうなジュグレさんに先導されて次の部屋に向かった




