第八十七話 その時、俺は……
今日はやけにおめかしをした若い子……って俺もそんなに変わりないけど……が多いように思えた。
今、俺は買い出しの為に市場に来ている。いつも野菜を買っているお店のお婆ちゃんに聞いたら、今日は成人式が行われると教えてくれた。
この国では15歳で神職目録開示の儀を教会で受けそれぞれが進む道を決めていく。その後、18歳で成人を迎え大人の仲間入りをすると同時に、お酒が飲めたり結婚する事が出来たりと自由になることも増えるけど、納税義務も発生する。だけど、大人の仲間入りをすることは嬉しい事だ。
王都では年に一回。新成人だけが王城に招かれ、陛下直々に祝いの宴を催してもらえるらしい。それは陛下が国民の成長を喜び、更なる国の発展を願っての事だとか。
またこの宴で結婚相手を見つけ人も多いらしい。
なるほど。それなら相手の気を引こうと…… 王城に入るのだからおめかしをして気合を入れるのも無理はない。
だけど、おれも王都に来てから6年目になるが、今まで気が付かなかった……
でもしょうがないよね。教会でお世話になったり、職を転々としていたんだから周りに目を向ける余裕が無かったのだ。そう。そうなのだ。って、言い訳する必要も無いか……。
そう言えは、俺が成人した時はどうだったかな……?
俺は18になった日に家を出て王都に向かい、ここで暮らすようになったけど、村で成人の宴が行われていたかどうかも知らない。そう言えば兄さんたちが18になった年にウキウキしながら出かけたことが有ったな……もしかしてそれがそうだったのかも。
俺は18の誕生日を迎える半年前にこの家を出て王都で暮らしたいことを両親と兄たちに告げた。初めはこの村で結婚して新しく畑を開墾したらどうかと言われたが、適職が不明なチョコラに嫁いでも良いと思ってくれる娘はいない。言いにくい事だが、村の中で適職も不明で村の役に立つのかどうか分からん奴とは付き合うなと言われたことも有った。
だけど、神職目録開示の儀を受けていないというか、俺も忘れてたから人のせいにはしないけど反論する事が出来なかった。
親には言えなかったが、これ以上村には居たくなかったのだ。
それから何度も家族の説得を試みてやっと父さんが思いもよらぬ言葉を掛けてくれた。
「お前の人生はお前の物だ。今まで反対していたがチョコラの意志が固いのは良く分かった。それだけ固く決めたのなら王都へ行くのを許すそう」
「私は今でも反対よ。だって……寂しいわ」
「父さんが許したのなら俺たちは何も言わないよ」
「王都で頑張れよ」
俺はみんなにお礼を言って、それから準備をはじめ、待ちに待った18歳の誕生日。その日の朝、王都に向けた一歩を踏み出した。




