第七十八話 王都に帰ります
今回の帰省で村長と決めた家のクリーニング補修が終わった。実家への感謝から始まった作業がここまで大規模に膨らむとは思っていなかったが、村の人が喜んでくれたから良かったよ。
オマケに、ルーバが村の人達と狩りに行っていたようで大量の肉が手に入ったからと干し肉にしたり燻製にしたりと保存食にするようだ。
王太子殿下も未だに村……我が家に滞在して別荘予定地の整地を手伝ったり、農作業を手伝っていた。
部屋を追い出された兄たちにと居候を押し付けられたロンじいには申し訳ないばかりだ。
母の悪戯から始まった帰省もはや二月近くになりこれ以上店も閉められないからと両親を説得し、いよいよ明日には王都に帰ることにした。それに倣ってか殿下も帰ることになった。
殿下から馬車に同乗し一緒に帰ろうと言われたが、ルーバに乗せて貰えば10日で戻れるから殿下は馬車でゆっくり戻って来てくださいとハッキリとお断わりをした。
最後の夜にはご馳走を作り、細やかだけど殿下とロンじいを交えてパーティーを開いた。
かあさんからは「年に一回くらいは帰って来なさい」と言われるし、父さんからは「手紙位は毎月でも出せるだろう」と言われ、兄たちからは「今度は土産を頼む」と言われた。
土産で思い出したが、もしもの時に使って貰おうと用意してきたお金を出した。中を見た両親は
「こんな大金どうしたんだ」と驚いていた。
「これは俺が稼いだお金だよ。何か有った時にでも使ってほしい」
「しかし……こんな大金どうすんだ……」
「そうね。家も綺麗にしてもらったし……困らないわよね」
「じゃ~ 兄さんたちが結婚するときにでも使うとか……」
「俺らは要らねえよ」
「そうだな。兄としてはチョコラに頼れねぇよ」
「うん。じゃ~村の為にでも使ってよ」
「そうだな。村長と相談してみるか」
「そうしましょうか。村の人も喜ぶわ」
「チョコラ殿のご家族は欲が無い方ばかりだ」
今まで黙って聞いていた殿下が感心しきりに話に入って来た。
「王宮に居ては見ることが出来ない光景です。王都では強欲塗れで疲れます」
「ここでは普通の事です。何も無い田舎ですから皆で協力しないと生きては行けません。ない物ねだりをせず、有るものに感謝する。自然と共に暮らすしか出来ないのですから」
「……それが本来あるべき姿なのかも知れませんね」
「殿下もいろいろとお疲れのようですね」
「別荘が完成したらお心を休めにいつでもお越しください。村の者みんなで歓迎しますよ」
「ありがとうございます。お心使い感謝いたします」
思わぬ話の流れで王都に居る時とは違った殿下の一面を見た貴重な夜となった。
翌朝、俺はレーちゃんを胸のポケットに入れ、ルーバの背に乗り家族に別れを告げると、かあさんは「昼にでも食べなさい」と弁当をくれた。とうさん「気を付けて帰れ」兄さんたちは「来年も続きをしに来るんだろう。待ってるぞ」と見送ってくれた。
そうだった……思い出させてくれてありがとうと心の中でお礼を言った。




