第六十五話 母からの手紙
フェニックスのレーちゃんが家族に加わった事をタージさんとミハルさんにも紹介した。
俺に何かあった時にお願いをしなければならないからだ。言葉には出していないけど、この二人を第二の親だと勝手に思っている。もし言ったら、せめて兄と言ってくれとか言われそうだけどね。
その間もルーバは相変わらずでうまいっ亭の前でアイドル犬をしている。ミハルさんはルーバ目当ての客も居て、居ない日にはどこに行ったのか聞かれることもあると言う。すっかり人間界に溶け込んでいるよ……。
そんな穏やかな日が続いたある日、母からの手紙が届いたと教会の子供が届けてくれた。
内容は短くて、一言『一度帰って来てください。出来るだけ早く』と書かれていた。
何か実家で有ったのだろうか。思えば家を出てから6年近く一度も帰っていないし、手紙も教会に居た時に一度しか出していない。って言うか、出せなかった。なにせ、職も転々としていたことからその日その日を食べるだけがやっとで、手紙を書いても、出す事が出来なかったのだ。はっきり言えば、送り賃が無かったのだ……。
店を出してから金銭的にはゆとりが出来たけど、こんどは色々な出来事に翻弄されてゆっくり書くゆとりが無かったのだ……。
まぁ~ どんなに言いつくろっても言い訳にしかならないんだろうけど……。
とにかく、なるべく早く帰るように書いてあったことで、何か悪い事でも起こったのかと不安が湧き、国王陛下や公爵様から貰ったお金の半分以上を持って帰ることにした。
村を出て、俺が王都まで歩いて来た時は三月も掛かった。馬車を乗り継いでも多分一月は掛かるだろう。出来るだけ早くって言う事だからここはルーバに乗せて貰えるようにお願いをすることにした。
『お主の願いとはそんな些細な事か。我が本気で走れば10日もかからんぞ』
「本気を出されたら俺が死にそうだから適度な本気でお願いするね」
『わかった。任せろ』
『ご主人様、レーちゃんも一緒に行くなの』
「もちろんだよ。レーちゃんも俺の家族だからね。置いては行かないよ」
『ありがとうなの~』
準備が出来たので、後の事はミハルさんにお願いをした。今までに仕上がった物を渡してもらうのだ。
「今まで手紙も出してなかったの? あきれたわねぇ~」
「はい。すっかり忘れてました……」
「そんな事より早く出発した方が良いんじゃないか」
「はい。それでは留守中の事、お願いします」
「任せて置け」
「ありがとうございます」
もう何度もお願いをしているから今回も快く引き受けてくれた。戻ったらまたお店の掃除でもしてあげよう。
それからレーちゃんを懐に作ったポケットに入れ、ルーバの背中に乗るとうまいっ亭の人たちに見送られながら実家のある村に向かったのだった。




