第六十一話 諦めが肝心?
俺が勲章を付けている姿を見たいがためだけに王城に呼び出されたことで余分に一日店を閉めてしまった。帰りの馬車の中で戻ったら今日の遅れを取り戻すために仕事に集中しようと決意を固めた。
店に戻るとティアさんが待っていて涙を浮かべて俺を待っていた。
「店長。そんなに私が邪魔でしたか? 聞きましたよ。陛下に近衛に復帰させるように進言されたと……私の事……嫌いなんですね」
「いや……嫌いとかで無くて……」
「じゃ~ なんですか。私がお傍に居たら迷惑なんでしょ」
「そうじゃなくて、ティアさんに相応しい場所はやはり近衛隊だと思うので……」
「わ…たしは…………」
ティアさんは言いかけた言葉を止めるといきなり笑いだし、「あぁ~ 失敗。このまま押しかけ女房になろうかと思ってたのに……」と言いながら荷物をまとめだし、「今日は近衛に戻るけど、貴方を諦めた訳じゃないからね」と帰って行った。その後ルーバにも『この朴念仁が』と呆れられた。
とにかく、これで平常に戻ると思ったのもつかの間。「遊びに来たぞ。話し相手をせよ」と殿下がやって来るようになった。しかも本当に頻繁に来るから仕事の邪魔でしょうがない。
王太子ってそんなに暇なんだろうかと疑ってしまい、つい聞いてしまった。
「頻繁にここに来ますけど、そんなに殿下は暇なんですか?」
「そんなことは無いぞ。ココに来るためにそれなりに早く終わらせているのだ」
「そうなんですか……でもね、殿下が庶民の店に入りびたりって言うのはどうかと思うんですけどね……」
「心配は要らぬ。チョコラ殿は王家の親友だ。親友の店に来るのに遠慮が居るのか?」
無理だ。王族相手に言葉を選びながら言っていては何も伝わらないだろう。かと言って、はっきりとは言えないし……これならティアさんが居た時の方がましだったと後悔しても遅いか……
一月もすると殿下が居るのは普通の事とばかりにお客も気楽にあいさつしているし、俺が対応できない時は殿下に預けて帰る。ミハルさんの話だと庶民派殿下と評判が良いらしい。タージさんも諦めろとしか言わないし……。最近では公爵家のアサロ殿までやって来て殿下と何やらやっているようになり本当の意味で諦めた。
二人をほかっていつものように庭で仕事を居ているとルーバがやって来た。
『おいチョコラよ。我が主がお主に会って礼を言いたいと言っておるが来てくれぬか』
「礼なんか要らないから気にしなくて良いと伝えて置いて」
『それは出来ん。無理にでも来てもらうぞ』
そう言うと俺の襟首を咥えると何かを操作したかと思うと一面が白い場所に下ろされた。




