第六十話 この呼び出しはなんですか
勲章を貰った当日は王太子殿下に店を訪れる貴族たちを追い払って貰ったが、翌日も今日こそはとでも思っているのか、貴族の馬車が列をなしていた。そんな中、王家の紋章を掲げた馬車が停まりお使いの人がやって来た。
「昨日、王太子殿下よりお伝えいたしたと存じますが、王宮へのお迎えに参りました。お受け取り頂いた王家の親友の勲章をお付け頂きお越しください」
いきなりだったけど、ここで貴族の相手をするよりましかと思い、勲章を手に馬車に乗った。
何度乗っても高貴な馬車は乗り心地が悪い。庶民の俺には乗合馬車がお似合いなんだよね。
王宮に着く前に左胸のあたりに勲章を付けた。面倒くさいことこの上ないと思いながら……。
馬車は今までと違い宮廷のかなり奥まで進んでいった。以前は王城門の前で降り入場チェックを受けたことと比較しても大きな違いだ。
王宮正面の馬車止めで降りるとかなりの出迎えの人数にビックリした。その先頭に王太子殿下も居て「王家の親友だからね。家臣に出迎えさせられないよ」と言って、殿下自ら陛下の前まで案内をしてくれた。その道のりでは着て来た服が普段着だったので笑われたけど勲章に見合う服など持っていないのでしょうがないと自分に言い聞かせて、ほんと一言多いんだよと心の中で突っ込んでおいた。
「我が王家の親友よ。よくぞ参った。その勲章も貴公に似合っておる」
陛下からいきなりお言葉を頂き、礼を取る暇さえなかった。
「国王陛下。この度は過分な名誉を頂きありがとうございます。それで私を呼ばれたのは何か御用でも有りましたでしょうか」
「ふむ。特別なようは無いが、余が贈った勲章を付けた貴公を見たかっただけだ」
「はっ……? それだけですか??」
「何か問題があるか? 本当は大々的に叙勲式を行いたかったのを王太子が反対したから我慢したのだ。これ位は容赦せよ」
「…………」
「しかし、その服では折角の勲章も泣いておるな……」
「陛下。お言葉を挟んで良いでしょうか」
「王太子か。許すぞ」
「はい。陛下が勲章を贈られたので、私から礼装一式を贈りたいと考えておりますが、お許し頂けますでしょうか」
「それは良い。王太子とは別に余からも贈る事にしよう」
「お心使い、ありがとうございます。礼装は要りません。それよりも私から一つお願いがございます」
「ほう~その方から願い事か。言うてみるがよい」
「はい。わが店に居ます近衛隊のティラ殿ですが、私の護衛は必要ありませんので近衛隊にお戻し頂きたくお願い致します」
「……ティラが不満なら他の者を派遣しよう」
「いえ、そう言う事でなく、私への護衛は不要と言うことです」
「そうか。では余の影の者に……」
「ですから、護衛は必要ありませんので誰も付けないでください」
「……わかった。初めてのそちからの願いだ。聞き届けよう」
「ありがとうございます」
「では、時間が有る限り私が出向く事にしましょう」
殿下……それも辞めてください……




