第五十九話 勲章を貰ったものの……
貰った勲章は初めて聞く名称だった。
「この王家の親友は長き王国の歴史の中で、初めて授与される名誉です。しかも、チョコラ殿のために新設された価値あるものです。この勲章を提示する事で王宮でも公爵邸でも王族関係の屋敷にフリーパスで入れると言う特典が付いています。なので王宮に何時でも遊びに来てください」
「…………」
「それと、国王陛下からの個人的な言付けですが、この勲章を使って明日にでも来て頂けないかとの事です」
「……わかりました」
「では、私の任務はこれにて終了しました。ここからは一友人としてここに居ることにします」
しかし、王宮フリーパスと言われても用も無いのに行くことはないし、呼ばれても行きたくない。
そもそも庶民の俺が近寄れる場所ではないのだ。それに殿下にも早く帰って貰いたいところだ。
決して口に出せないことを考えていると外が賑やかになって来た。
「こちらはチョコラ殿のお店で間違いはないでしょうか」
訪ねて来たのは一回聞いて覚えられないほど長い名前の貴族の使者だった。
「この度の叙勲おめでとうございます。主よりお祝いの品と祝辞の書状を預かって参りました」
ちょっと待て。勲章を貰ったのはほんの今しがたで、しかも内密にって……どうなってんの??
「殿下。これってどういうこと?? 知られているじゃん」
「当然だろう。勲章の発布は内務府より公表され叙勲者名簿に掲載される。しかも誰でも閲覧することが出来るからな。隠すことは出来んのだ」
「えっ、でも内密に授けるって言ったよね……」
「そうだ。先程も説明したが、本来は盛大に叙勲式を執り行いのだが、それを取り止め密かに渡したろうが」
「まさか……それが内密って事??」
「いかにも」
「関係者以外には知られないって事じゃないの……」
「叙勲者は例外なく叙勲者名簿に掲載する事が義務付けられておる。しかもだれでも閲覧が出来る以上、他の者に秘密にしておくことは出来んな」
「…………」
軽いショックを受けている中……
「こちらはチョコラ殿のお店で間違いはないでしょうか」
俺は外を見てみると馬車の列が出来ていた。
「殿下。申し訳ないが俺の代わりに全て断ってくれ……」
「追い返せばいいのだな」
「穏便にお願いしますね……」
「任せて置け」
殿下は使いの二人と外に出ると、大きな声で宣言した
「我が名は王太子クラム・フォーエン・アデルである。この洗濯屋・想いでの店主は我が王家の友人なり。その友人を困らせる者は王家に弓引く者と同じであることを心得て聞くが良い。我が友人は祝いの品を望んでおらん。気持ちだけ受け取ったと主に伝えこのまま引き取るが良い」
頼んだ事を後悔した瞬間だった……。




