第五十四話 公爵邸ふたたび
約束の朝、公爵家からの迎えがやって来た。懸念した通りティアが同行すると言って引かない。
「私は店長の護衛も業務内容に含まれていますので離れる訳には行きません!」
いや……そんな業務を頼んだ覚えはないんだけど……
「これは国王陛下からの命なので何人も邪魔だては許されません」
そうかも知れないけど……公爵様にだって知られたくない事は有るんだから…… 仕方がない。
「ティアさんに業務命令です。俺の留守中に取り来た仕上がり品の引き渡しをお願いします。それが出来ないのなら今を持ってこの店から解雇します」
「先ほども言いましたが国王陛下の依頼が優先されます」
「では、今この時をもって解雇しました。俺の近くに居るのは迷惑です。陛下にもその旨伝えてありますので俺に追い返されたとお伝えください」
「……わかりました。留守番をさせて頂きます」
強硬手段だったけど、ティアさんに留守番をさせることに成功し、ルーバと共に馬車に乗り込んだ。
「お待ちしていました。アサロも昨日の夜辺りから奇行が治まって、今朝は以前と同じように穏和な感じに戻りました」
「そうですか。それは良かったです。では、早々ですがアサロ様に会わせて頂けますか」
そうお願いをするとアサロ様の部屋に案内をされて、二人で話をすることにした。
アサロ様にどうしてあの木を切ろうとしたのかを聞いたところ、近く輿入れされる姫のために景色のいい場所に離宮を建てようと考え、あの木が邪魔だった事からご神木とは知らずに切ろうとしたところ、多少の傷は付いたが道具がことごとく壊れ切る事は出来なかったと言う事だった。
その後、自分の言動や行動がおかしくなった事は自覚していたが、自分では制御できなくて心を痛めていたことも話してくれた。
この話を聞いた時に俺が思ったことは、自分の都合だけで無抵抗の他人を辱めた時に相手が感じる屈辱が如何なるのか身をもって知って欲しかったのだろう。
神はそこに存在する全ての物を加護し、知識を授け発展を願いそれを支える存在。けっして滅ぼすことはしない。だからこそ自分で経験して気付くように勉強の場を設けるために神罰を与えたのだなと……。
そう言えば、何かの本で読んだことが有る。この国は昔から神に守られた神国であり、人々は何かをする前に必ず神様に感謝と事業の安全を願い、祈りを行う習慣が有ったが最近ではそれが廃れていると。それに伴い不思議な出来事も増え、教会でお祓いを受ける人も増えて居ると書いてあったのを思い出した。
アサロ様から話を聞いた後、あの木があの辺りを守護している神の宿り木である事、そしてその木を無断で傷つけた事に対しての神罰を約2週間の間受けていた事。公爵様があの地を保護地に指定したことを説明して、ご神木に謝罪をしに行くことですべての神罰が解除される約束をしていることを話した。
「アサロ様。私も一緒に行きますからこれよりそのご神木に謝りに行きましょうか」
「分かった。私の軽率な行動で起こしたけじめは致しましょう」
こうしてご神木へと向かうのであった。




