第五十三話 押し掛け店員
殿下に手紙を託した翌日、監視が居なくなりティアさんも近衛隊に戻って行った。陛下がちゃんと読んでくれたのだと安心した。もちろん手紙には書かなかったが、公爵家の事は不利益な扱いは受けていないと口頭で伝えて貰ったけど、そちらもこの分なら安心出来るだろう。
やっと普通の状態に戻り落ち着いて仕事が出来るのは良いけど、明日の朝には公爵様の迎えがくるから今日中には今受けている仕事を片付けなければならない。数はそんなにないけど、騎士団と近衛隊への納品数は減ることが無いからそちらの方が大変そうだ。
夕方になり、なんとか指定の数を揃えることが出来たので、ルーバに頼み両隊に今日中に取りに来てもらえるように手紙を届けてもらった。
普通のお客で今日中に渡せなかった人にはうまいっ亭で受け取って貰うように張り紙をして出かける準備が整い、一息ついた時にティアさんがやって来た。
「今日付けで近衛隊を退官して参りました。無職となりましたのでここで雇って頂きます」
えっ、退官って……近衛隊を辞めて来た?? どうして??
「え…えっと……退官って……それより雇うって……なんでそうなるの?」
「はい。監視の件は隊で伺いましたが、それで陛下の懸念が払しょくしたわけでは有りません。それより、監視を外したことで逆に懸念が増した事でしょう。そこで、私から陛下に申し出て店員を兼ねた護衛を引き続きさせて頂きます。しかし、近衛隊に所属したままでは店長のお気持ちを損なう事になりますので、表向きは退官し、一市民として雇って頂きます」
「いや、表向きはって……それ辞めてないって事でしょ……」
「いえ、近衛隊の隊籍は抹消され、給料も出ませんから退官扱いになっています」
「給料も出ないって、俺もまだこの家の支払いが有るから雇ってもろくな給料はだせないよ」
「給料は要りません。国王陛下から護衛の報酬が頂けることになっております」
「陛下から報酬って……それ無職じゃないよね」
「これはすでに陛下による国策です。一市民として従う事は義務ですから店長にも拒否権は有りません」
「…………」
「という事で、先日まで使わせて頂いた部屋を使わせて頂きます」
押し切られてしまった……
陛下……ちゃんとティアさんを近衛隊に戻してって書いたよね……誰もこの店に戻してとは書いてないよ……
あぁ~ 一人で気ままに仕事したいのに……どうしてくれるんだよ。やっぱ王族と貴族には関わらない方が良かったと後悔したのであった。
「あっ! 明日から公爵家だよ。どうしよう……」




