第五話 テーブルをクリーニング?
食後の休憩も終わり夜の仕込みにはいる。夜は4時半開店だから、あと一時間半で準備を終わらせる必要がある。タージさんとミハルさんが厨房で作業をする間、俺は客席を整える。
バケツに石鹸水と濯ぎ用の水を用意しテーブルと椅子を拭いていく。
テーブルは全部で12個。椅子はそれぞれに4個ある。順番にすべてのテーブルの天板を石鹸水でベタベタに濡らしていき、浮き出した汚れを拭き上げて行く。それから水拭き、乾拭きの手順だ。
これを椅子にもしていく予定だ。
かなりの汚れが付着していたのか、台拭き用の雑巾が真っ黒になった。雑巾を軽く濯ぎながら丁寧に汚れを落としていく。どのテーブルもかなりの汚れだった。
昼の休憩時間は短く、やることも多いからテーブルなんか簡単に拭いて終わりにしておかないと、間に合わないんだろうな……などと思いながら、今日の俺に出来ることはこれ位しかないから気合を入れて綺麗にしよう。
全てのテーブルが綺麗になった。真っ黒だった天板に木目の模様が出て来たし、まるでワックスを掛けたかのように光っている。うん。上出来だね。
次に椅子だ。テーブルと同じように座板から作業をはじめてすべてが終わったけど、まだ時間が有ったので、天板や座板だけが綺麗でも脚が汚ければ意味が無いよな……って思ったので、テーブルの脚も椅子の脚も拭き上げることにした。だけど足は天板のように汚れを浮き上がらせることが出来ないので、タオルに石鹸水を染み込ませ、脚に捲いていき少し時間を置いて汚れを浮き出させた。
あとは同じ要領で作業を進めた。椅子まで全部終わったのは夜が始まる15分前だった。
厨房でも作業が終わったようでミハルさんがフロアに出て来たかと思ったら何故か固まっていた。
どうかしたんだろうかと思い声を掛けようかどうか迷っていたら、いきなり大声で叫んだからこちらが驚いてしまった。
「タージ。タージ。テーブルと椅子が……」
「どうし……た…… チョコラ……何をした……?」
「えっ? 石鹸水で汚れを浮かしてから拭いただけだよ」
「……拭いただけでこんなになるのか???」
「なるわけ無いでしょ!」
もしかして余計な事をしたんだろうか??
「あの……俺、余計な事をしちゃいましたか?」
「あっ……いや。ありがとう」
「まさかここまで綺麗にしてくれたから驚いただけよ…… ほんと。ありがとう」
余計な事じゃ無かったみたいで安心。おまけにお礼まで言って貰えたしね。
夜の営業も始まり、お客さんもパラパラ来始めて誰もがテーブルと椅子を見て「新しくなってる」「すっげぇ~きれい」と驚いていた。