第四十六話 公爵様の依頼
わしの来店に恐縮する店主に時間も惜しいとばかりに今日にいたる経緯から話すことにした。
我が公爵家に襲い掛かった不幸。それは一月程前になるだろうか……
領地の経営を任せている息子に異変が起きた。突然人が変わったような行動を取るようになったのだ。
周りの者の話では本当に突然で予兆も感じられなかったと言う。医師に診せたが何処にも異常が無く健康体だと言われた。
何かの呪いかと思い呪術者にも見せたが何も感じられない。念のため教会にも足を運んだ。
しかし何の解決にもならなかった。
息子の奇行は日に増して激しくなり、このまま行けば廃嫡して隔離しなくてはならない。生憎とわしには一人しか子が出来なかった故、もし息子を廃嫡したら跡取りは親族から養子を迎えなければならない。家名のため為ならそれもやぶさかでは無いが何とか出来る物ならしてやりたいと思うのが親心なのだ。
そんな折、王宮で5年もの間寝たきりになっていた王妃様がお目覚めになり、時を同じくして王太子が頻繁に出入りしている店が有ると聞き及んだ。影の側近に調べさせた結果、この店の店主殿が王妃様の件に関わっていた事が報告されたのだ。
本当に王妃様を治されたのなら我が息子もお願いを出来ないかと思い、藁をも掴む思いで店主殿にお願いをしたく参ったしだいだ。
「わかりました。だけど、王妃様の時は偶然で、ご子息様の事は出来るかどうかは保証できませんよ」
「構わん。わしは望みに掛けたいのだ。どんな些細な事でも可能性を捨てたくないだけだ」
「そこまで言われるのでしたら伺いますが、公爵様の領地はここからどれ程の所にありますか? あまり日にちが掛かるようなら今受けている仕事を終わらせる必要がありますので」
「我が領地はここから半日の所じゃ」
「そうですか。では二日だけ待ってもらえませんか」
「わかった。では三日後の朝迎えに参る」
「それと、犬を連れて行くことお許しください」
約束の朝、公爵家の家紋が入った馬車が店先に着いた。うまいっ亭のタージさんとミハルさんが心配して来てくれたが、出張でのクリーニング依頼だと言って安心させた。
ルーバを連れて馬車に乗り込み公爵領に向けて出発したが、王家の馬車にも引けを取らない内装にぜんぜん落ち着けなかった……。
馬車は順調に進んで、昼過ぎには領地の屋敷に到着をした。
豪華な造りの建物はさすが公爵家としか言えない。中に入ると庶民には一生目にする事はない絢爛な装飾品に目を取られ声も出なかった。
俺があまりにもキョロキョロするから公爵様にも笑われてしまった。




