第四十五話 公爵の憂い
とある公爵は洗濯屋を連れて来れなかった顛末を侍従から報告を聞いていた。
「なに! 陛下から書状を所持していたと言うのか!」
「はい。強要した爵位の者ははく奪、もしくは降爵に処すとかいてありました」
王太子が頻繁に出入りしていると言うだけでも何かあると言うのに、陛下からも……
公爵はますます洗濯屋に会いたくなっていた。一番確実なのは自分から出向くことだが、それは公爵としてのプライドが許さなかった。王家に次ぐ公爵家だ。すべての国民が平伏する。その公爵家がわざわざ平民風情の元に出向くとは……
あれから3度ほど迎えをやったがことごとく断られた。それだけではない。最近はこの公爵家に対し警戒を強められている節が有ると報告を受けている。我が侍従どもはいったいどんな態度を取っているのか疑ってしまう。
今日も公爵様の使いがやって来た。これで3度目だ。しかも、タイミングが悪く騎士団と近衛隊への納品日にやって来るから店を閉める事が出来ない。だから前回、2度目に来た時にちゃんとそれを説明し、この日を避けてくれたら出向くことが出来ると言っているのに分かってもらえなかったようだ。
ちょうどそこに近衛隊の副隊長さんがやって来て一言添えてくれたことで使いの人が帰って行ったが、いくら俺が平民でも話はちゃんと聞いてくれないかと思ってしまう。
今回も店主に断られたと侍従から報告を受けた。仕方がない。これ以上洗濯屋の心証が悪くなっては陛下の耳にもいずれ入るだろう。やはりわしが自ら出向くしか無いようだ。
家紋が入っていないお忍び用の馬車を用意させ洗濯屋に出向いた。店先に近づいたところで馬車が止まり、御者が声を掛けて来た。
「ただ今、騎士団が搬出と搬入をしているようでございます。店に向かいお館様を優先させましょうか」
「いや、今回は忍びで来ておる。終わるまで待つ事にする」
わしがここまで来て心証をさらに悪くすることは避けなければならない。わしにはどうしても頼みたいことが有るのだ。王太子の頻繁な出入り。それと陛下の書状。正妃様の全快にこの店の店主が必ず関わっているはずだ。王妃様を治せたのならわしの憂いももしかして……と期待をしてしまう。
待つ事しばし。騎士団が引き上げて事で馬車を店先に着け店内に入ると店主らしき者がいた。
「ご店主はお見えかな」
「はい。私がそうですが」
「わしはアロウスと申す。このところわしの家の者がご迷惑を掛けているようで申しわない」
「家の者って……公爵様ですか?」
「如何にも。わしが公爵だが、今日は一人の客として参った」
「申し訳ありません。いつも近衛隊と騎士団の取引日に見えるので伺えなかったんです。それに家名も伏せられていたのでこちらから伺う事も出来ず困っていたんです」
「なんと! 家名も告げずにおったのか。それは申し訳ない。わしの教育不足だったようだ」
「いえ、なん度も足を運ばせて申し訳なく感じております」
直に店主に会って感じた事は誠実な男だということで、陛下の権威を振りかざしておるようには思えなかった。これはわしの頼みも聞いてもらえるかもしれないと微かな期待が膨らんだ。




