第四十四話 ついに貴族がやってきた
あれから頻繁にクラム殿下がやってくるようになった。ほんと、何しに来ているのかが分からない。
殿下は俺の事を友達扱いをしているようだが、俺としては居た堪れなかった。
時折顔を合わす騎士団の副団長や近衛隊の副隊長も知らぬ顔どころか、殿下が居ないかのように振る舞い、早々に帰って行く。
見捨てられた??
ルーバに助けを求めようとも、知らん顔してうまいっ亭で今日もアイドル犬だ。
もうそっちに住み着けば良いのに……とさえ思えてくる。
だけど、人間の慣れと言うのは恐ろしい。だんだん気にならなくなってきて、しまいには「殿下邪魔です!」と軽い暴言? を吐いてしまうし、最近ではとうとう「クラム」と呼び捨てに……。
これには殿下も喜んで「その調子で頼む」とご満悦だ。
……失敗した。
そんなある日、今日は殿下も来ていない。仕事に集中できると安堵していた時だ。
「どなたかお居ででしょうか」
偉そうな呼び声が聞こえたので表に出てみると、いかにも執事然とした若者が立っていた。
「貴殿が王太子殿下が出入りしていると言うこの店のご店主殿ですか」
それはそうだけど……
「はい。この店の店主です」
「私はとある公爵家の使いの者でございます。この場で家名を名乗れない事はお許しいただいて、これより我が主の元までご同道願いたい」
「……申し訳ありませんが今日は店を閉める事が出来ないのでお断りします」
「公爵様のお言葉に従えぬの申すのか」
「どのようなお方でも今日はお断わりします」
「殿下が贔屓しているからと公爵様を軽んじられておるのか」
「そう言う事ではないですが、無理な時はお受けできません」
「では無理やりにでも連れて参るしかなくなるがそれでも良いか」
だから貴族は……とごちている時に思い出したものがあった。それはあの時に貰った物だ。
本当は見せたくはないが拉致られては仕事が出来ない。仕方がないか……
人目に付かないところに大事にしまってあった取って置きの物を取り出し、使いの者に見せる事にした。
「これは……」
「そう言う事なのでお帰り下さい」
「…………」
そこには『爵位を有する総ての者は《洗濯屋・想いで》に対して無理難題を強要してはならない。これを侵した者は爵位のはく奪。もしくは降爵の処分を行うのもとする』と王印と共に記されている書状なのだ。
「今日の所は戻るが、主と相談の上また参る」と言ってその使いの者は帰って行った。
それから数日してまたもや厄介ごとに巻き込まれるのだった。