第三十七話 王太子の思い
「まだ掴めぬのか」
「申し訳ありません。現在、利用者から聞き込みを強化しております」
「時間が惜しいのだ。早くしろ」
「はっ!」
王太子にはある思いが有った。それを叶えるために微かな可能性を求めて国中からその人材を探していた。噂に踊らされるわけではないが、信ぴょう性の高い噂は今回のように自ら出向き確かめても来た。
そして、洗濯屋・想いでの話を聞いた時にその可能性を強く感じ、どうしても会ってみたくなったのだ。
「殿下。こそこそ嗅ぎまわるより直にお願いをしては如何ですか」
声を掛けたのは王太子付きの侍従長だった。
「…………」
王太子は返事が出来なかった。あの店主が信用できないわけではない。だけど確証も無く話す事も憚られたのだ。
「こそこそ調べる事の方が信頼を失いますぞ。そうなれば協力を頂けるかどうか分かりませぬよ」
「母上の所に行ってくる」
王太子の母はこの国の正妃様で、5年前から病の床に臥せていた。隣国との友好条約の証としてこの国に嫁いできた。
父である国王陛下は政略結婚とは思えないほど正妃をめでられていたが、子供が王太子一人しか出来なかったことで4人の側妃を迎えさせられた経緯もあり、正妃の病も側妃の誰かが仕組んだものだと噂話も出ている始末で、担当医師も今では匙を投げて居るのが実情だ。
「母上。もうしばらくお待ちください。私が必ず治せる者を探し出します」
眠ったままの母に声を掛けても返事はない。
王太子は考えた。どうしたらあの店主に協力をさせられるか……
「騎士団長のゴーラルと近衛副隊長のカルラを呼べ」
普段から出入りをしているこの二人から直接話を聞いた方が早いと判断した。
「騎士団団長ゴーラル・ゴードンお呼びにより参りました」
「同じく、近衛副隊長カルラ・カップスお呼びにより参りました」
「入れ」
「そなたら二人を呼んだのは洗濯屋について聞きたいことが有る」
それから二人から詳しく話を聞き、『回復』の能力を持っているのではないかという仮説が浮かんできた。そして無理やり呼び出したりすれば能力を上手く発動できない可能性も有る事を助言された。
「では、どうすれば良いのだ」
「はい。チョコラ殿は純粋な心をお持ちの方です。さすれば単純に正妃様のお身体を清めて頂きたいと素直にお願いをするだけで良いかと思われます」
「断られるか?」
「そうですね……。チョコラ殿は男ですから断られるでしょうね」
「それではダメではないか!」
「それで、国王陛下に内緒では出来ませんのでちゃんとお話なされて可能性に掛けると言う事をお勧め致します」
「わかった。父上に会ってくる」
そう言って部屋を後にした。