第三十四話 またしても難題が……
「ここが噂の洗濯屋か」
「左様でございます。近衛だけでなく騎士団も贔屓にしているとか」
「よし。会ってみるか」
「御意に」
「チョコラ殿、今日はいくつ程を納めて貰えますかな」
「はい。防具を20と剣を30。それと槍も30です」
「そんなにもか。助かる。ありがとう」
ちょうど近衛隊の副隊長さんが受け取りにやって来ていた。
「じゃまするぞ。店主は誰だ」
また偉そうな奴だな……そう思いなながら副隊長さんから離れ表に出て行った。
「俺がここの店主ですけど……」
「その方がいま話題になっている洗濯屋か」
「……それは知りませんが、看板の通り洗濯屋ですけど」
「今日はその方の腕前を拝見したく参った。仕事ぶりを見せるが良いぞ」
いきなり来ていきなり訳の分からん事を言い出す。こいつは客か?と不審がって居る処に副隊長さんがやって来た。
「チョコラ殿。私はこれで戻りますので、明日もよろしくお願いします」
「カルラではないか。お前も来ておったのか」
「殿下!」
副隊長さんがいきなり敬意の礼を示した。
「カルラもこの店を使っておるのか?」
「はっ。近衛隊の武具をこの店で整備をして頂いております」
「そうであったか」
「副隊長さん。こちらのお方は誰ですか? さっき殿下って言ってような気が……」
「チョコラ殿。こちらのお方は王太子殿下であらせられる」
「はい!? 王太子殿下???」
「良い良い。気にするな。今日は巷で噂の洗濯屋の仕事ぶりが見たくな」
「では私はこのまま殿下の警備に付かせて頂きます」
「では頼む」
突然の王太子殿下の来店に戸惑ってしまった。
取り敢えず、作業を見たいという事なので裏庭に案内した。
「俺……私の作業場はこちらでございます」
「何もない庭先で仕事をしておるのか?」
「いえ、ここは俺……私の作業がしやすい場所なのです」
「そうか。ではコレを洗濯して見てくれ」
差し出されたのは王家の紋章が入った一枚のコートだった。
王太子殿下の話では成人の儀で着用するため国王陛下から下賜されたもので、近く宮殿内行われるパーティーで着用する予定だと聞かされ、そんな大事な物を一介の庶民が扱って良いのか不安になった。
「あの……このような大事な物を俺……私が触れる事すら恐れ多いのですが……」
「かまわん。その方が噂通りなら問題はない」
「その……恐れ多いのですが、どのような噂をお聞きなのでしょうか?」
「私は思い出の品を見事に新品同様にしてその時の光景までもが甦ると聞いている」
「その時の光景までですか……」
まさかそんな話までも出回っているとは初めて聞いた。
「失礼ですが。さすがにその時の光景までは俺……私には無理です。なぜなら、思い出はその人の心の中の物で私が触れられるものではありません」
「解っておるから安心せよ。ただ、噂とてそこまで言わせるその方の仕事ぶりが見たいのだ。だから私が一番大事にしている思い出の品を持って来たのだ」
粗相が在ってはと断っても諦めてもらえず、副隊長さんに視線で助けを求めたが目をそらされてしまい渋々受ける羽目になってしまった。




