第三話 食器をクリーニング?
最初の客が帰りはじめ、食器が下げられて来た。いよいよ皿洗い開始だ。
初日から失敗は許されない。慎重に丁寧にそして素早く綺麗に仕上げるぞ。と意気込んでいた時に
『クリーニング開始。補正機能始動』って変な声が聞こえた。
??? タージさんが何か言ったのかな??
そんな声も気にすることなく、俺は皿洗いを始めるために下がって来た皿をシンクに入れていく。
皿はどの皿も使い込まれていてところどころ欠けていたりヒビ割れしていたりしていて洗うにも注意が必要なようだ。
片っ端から洗い、濯ぎ用のシンクに入れていき、一通り溜まったところで仕上げの濯ぎをして、布巾で拭いて食器棚に仕舞っていく。今日の仕事はこれの繰り返しだ。
初めて入った時はオンボロで汚いお店だったから大丈夫かなと正直不安も感じていたが、想像と違い客足が途絶える事無く次々とやってくる。とても客回転が良いお店だった。
一心不乱に皿洗いと簡単な盛り付けをしている内にお客様からの声が聞こえて来た。
「おぉ~~ 皿が新品じゃねぇか。やっと買い替えたのか?」
まぁ~ あれだけ痛みの激しい皿だから新しいのと入れ替えても不思議じゃないよね。などと思っていたら、「そんなお金が有るわけ無いでしょ。値上げしても良いなら買うけどね」とミハルさんの声。
それを聞いていたタージさんも厨房から「そうだそうだ」と笑っていた。
どうやらこの店は設備に金を掛けるくらいなら安く料理を出しているようで、とても良心的というか、タージとミハルさんの人柄が出ているアットホームなお店だった。
昼頃になると忙しさも半端なく盛り付けをしていると皿が洗えず、皿を洗っていると盛り付けが出来ないって感じだ。だけど「皿が足りなくなるので洗いを優先してくれ」と言われ皿洗いに専念することになった。
すると再び「皿が新しいな」とお客が言っている。
「そんなことないわよ~」ってミハルさんが応対しているが、別の所からも「ホントだ」「こっちもだ」と声がしてきて、ミハルさんも不思議に思ったのかお皿を確認したようで「ホントだわ……」って驚きながら、タージさんの所に来ていた。
「ちょっとこれ見て。こっちも。これもよ。全部が新しくなってるわ」
「どういうことだ??」
タージさんも盛り付けに用意して置いた皿を見て「これも新しくなってるぞ」と俺の方を見て来た。
ミハルさんが洗い場を見に来て、欠けた皿を一枚俺に渡し「これを洗ってみて」と言うと俺の手先を見たまま作業を促してきた。
言われたままに皿を洗い、濯ぎをして布巾で拭いていく。
「それよ!」
ミハルさんがいきなり耳元で大きな声を出すから洗ったばかりのお皿を落としそうになった。
「タージ。見て。チョコラさんが洗ったのを拭いたら新品のようになったわ」
「なんだって? チョコラ、もう一度やってくれ」
2人が見ている目の前でもう一度洗いから布拭きまで見せた。
「凄いな……」
俺も二人に指摘されるまで自分が起こした出来事に気が付きもしなかった。