第二十九話 うまいっ亭
朝からとんだトラブルに巻き込まれ? って俺は当事者か……
では言い直して、団長のイタズラにまんまとハマって……?
なんか違うな……
朝からドタバタとしたけど、なんとか副隊長さんも帰ったので平常モードで仕事を始めた。
ルーバは何時もの様にお隣、うまいっ亭でアイドル犬中。いろいろ貰って食べているようだけど迷惑を掛けて居なければいいんだけどね。後で俺も顔を出しに行こう。
2日も待たせたので手早く丁寧に汚れを落として行き、形を整える。それから乾かすことで仕上がる。
集中して作業をしていたら後ろから声を掛けられた。
『おい。そろそろ昼飯を食え』
ルーバだった。
『タージとミハルが心配してたぞ。店に行ってやれ』
「うん。分かった。これが終わったら行くよ」
『早く終わらせろ』
ルーバに急かされたこともあり、キリが良いところでうまいっ亭に顔を出した。
「おうチョコラか。朝から大変だったみたいだな」
「えっ。もう知ってるんですか?」
「知ってるも何も、カルラの大声がここまで聞こえたよ」
「カルラって誰ですか?」
「近衛の副隊長だよ」
そうか……あの副隊長はカルラさんと言うのか…… 確かに煩かったな。
「騎士団と近衛隊って仲が悪いの?」
「いや、そんなことは無いぞ。ただ、両方ともゴーラルに振り回されてるのは事実だな」
「そうなんだ……」
「チョコラも災難だったな」
なんだかジータさんが楽しそうだったのは気のせいかな?
「ところでよ。うちの客から聞かれたんだけど、お前は店に看板は出さないのか?」
看板か……考えた事もなかった。その前にお店の名前も決めてないから看板何て出せないし……
「……看板どころかまだお店の名前も決めてないから」
「おいおい。それは不味いだろ」
「そうよ。名前は大事よ。早く決めなさい」
ミハルさんからも言われた。ミリアさんから「今から決めたらいいじゃない」と軽く言われ4人で昼食を取りながら《緊急議題!チョコラの店名会議》が開かれることになった。
「それで、何も考えていないのか?」
「はい。今日言われるまで……」
「あの。この店の名前はどんな思いで付けたのですか?」
「この店か……」
タージさんが聞かせてくれた話は、ミハルさんと出会った頃から遡って話し出した。
「あれは俺がまだ料理人の修行中にミハルと出会ってな、練習で作った失敗作でも美味い美味いって試食をしてくれたんだ。時々こうしたらどうかと意見も言ってくれてな。それで俺はもっと美味い物を食わせてやりたいと思って修行を頑張ってこの店を出したわけだ。それでミハルだけでなく多くの人に美味い物を食わせようと付けた名がうまいっ亭だ」
「でも修行時代からタージが作る料理は美味しかったのよ」
なんだか惚気を聞かされた気分になった。




