第二十五話 隣のおじいさん
三日後から夜の営業にもミリアさんが出てくれることになり俺は近衛隊の依頼を始めることが出来ることになった。うまいっ亭の手伝いが出来なくなるのかと思うと少し寂しい気がするが、その分ルーバに客引きアイドルを頑張ってもらおう。
今日も普通のお客さんからの依頼を優先に作業をしていたらタージさんに呼ばれた。
お店に行くとうまいっ亭の隣に住んで居るおじいさんが居て、俺に話があると言われた。
おじいさんはうまいっ亭の常連さんで、奥さんを早くに亡くし一人で住んでいたけど、近い時期に王都の別の区画に住んでいる息子さん一家と一緒に住むことになりこの家から離れるそうで、俺に買わないかと言う話だった。
実はこのおじいさんが一番初めのお客さんで、奥さんからプレゼントされた帽子をクリーニングして欲しいと持って来られた人だ。
俺に声を掛けてくれたのは、奥さんとの思い出の帽子が甦って嬉しかったことと、みんなにも喜ばれていることからどうせ手放すのなら安心してこの家を任せられる人が良いと言う事で俺に声を掛けてくれたらしい。
だけどいくら騎士団の仕事を受けているとはいえ、家を買えるほどまだお金は貯まっていなかった。
「もしかして金の心配かい? それなら心配はいらんぞ」と見透かされたようにいわれ驚いた。
「この年になるとな、金の問題でなく思い入れのある家を任せられるかどうかの問題なんじゃよ」
俺にはその感情は分からないが、おじいさんは「わしは王都を離れるわけではない。この店にも時折は飯を食いに来るつもりじゃ。だけどな、その時にもしこの家が無くなっていたらどんなに寂しい事か……。だからわしが死ぬまでお前さんにこの家を管理して欲しい。そしてわしが死んだらこの家はお前さんの物じゃ」
「……」
「とにかくじゃ、わしが安心して譲れるのはお前さんしかいないと言う訳じゃよ」
「でも、どうして俺だと安心して任せられると思ったんですか?」
「ほほほっ…… それはこの店じゃよ。聞けばお前さんが店主に感謝しながら掃除したそうじゃな。その結果が今の店じゃ。わしの家もこの店と同じようになればわしも嬉しいし、お前さんも長く使えるじゃろが」
タージさんとミハルさんも悪くない話だと言いだし三人に押される形で隣の家を買う事になった。
条件は毎月銀貨5枚をおじいさんが亡くなるまで払うか、もしくは金貨250枚分になるまで。
それでも安い買い物だと思った。
こうして念願の家を手に入れ、独立した店を出せる目処がついた。しかもうまいっ亭の隣という俺的には願っても無い場所にだ。




