第二百三十二話 チョコラ、罪悪感を感じる
コミュレットとパーティーパーティーでホールケーキがデザートとして出されるようになった。
特に、パーティーパーティーでは披露宴の余興として新郎新婦自ら切り分けて出席者一人一人に振る舞うというケーキサーブが人気を博し始めていた。
もちろんプロの料理人が作るものだからチョコラのようにクリームの塗りムラを隠すような飾りは必要なく、艶やかな純白のクリームが気品を醸し出していた事も理由の一つだ。
そんなある日、チョコラの元にパデット鍛冶工房の店主さんがやって来た。目的はケーキの型が思いの他、注文が殺到していてお礼に来たと言うのだ。
あの時、量産の助言を受けてそれなりに作った置いた積りだったが、助言通りに売れるどうかも判らない段階では用意できる数は限られていたらしく、話しを聞くとジュグレさんの店に在庫分以外にも追加の注文を受け後、ポツポツと注文が入るようになり、自分だけでは賄いきれず他の工房に依頼を出したそうだ。工員雇わないの?と聞いてみたら賃金を払えるところまでは経営も回復してないから二の足を踏んでいるとか……。
そもそも王都の鍛冶工房は数年前まで騎士団と近衛隊の武具と武器を主に作っていたが、ある時から新規作成の依頼が減り、多くの工房が包丁や鍋などの台所用品に主軸を移しなんとか経営を保っていたから今回のケーキの型は非常に助かっていると言う事だった。
この話を聞きながらチョコラは思っていた。
まさか、鍛冶工房に打撃を与えたのは俺が騎士団と近衛隊の武具と武器のクリーニングをするようになったのが原因か…… だとすると俺が謝らなければいけないんじゃないのか??
「あの…… もしかしてその受注が減ったのは俺のせいかも……」
「それは無い」
「でも……」
「武具も武器も耐久性ってのがあるんだ。手入れをどんだけしてもいずれは壊れるってもんさ。受注が減ったって言うのはこの国が平和だって証拠さ。俺はこの平和に感謝はするけど恨みはねえよ」
そう。この鍛冶職人はまだ知らないのだ。チョコラが手入れをすると耐久性すら強化することを……。
「それによ、今回のように多くの人に新しいものを作り、それが受け入れられるってもの楽しいもんだぜ。でも、そのきっかけはお前さんだがな」
「あ…あの…… 新たなお願いをしたいのですが聞いてくれますか?」
チョコラは思い立ったように近くに遭った紙を3cm幅に切ると適当な形を一つ作り、後は色々な形を紙に書いたのを渡した。
「これは抜型と言うのですが、この絵のような形の物を作ってくれませんか?」
「……これは何に使うんですか?」
「これは焼き菓子を作るときにこの型で押し付けるように生地を切り抜くんです。そうしたら色々な形のお菓子が楽しめると言う物です」
「おぉ~ 子供たちが喜びそうですね」
「はい」
「よし、作ってみよう。できたら持ってくるから使って見せてくれ」
「よろしくお願いします」
それから数日。出来上がってきた抜型を使いクッキーを焼いた。もちろんタージさんの店で。
これは野菜にも使えるとタージさんにも好評でいくつかの注文をしていた。
出来上がったクッキーを差し入れにとリョウタ君にも持たせたところ、ジュグレさんからも注文が入り、披露宴で新郎新婦が出席者に感謝とお礼の気持ちを乗せたプチギフトとして渡したことが切っ掛けで市民にも抜型の存在が知れ渡る事となった。
ついでにクリームの絞り金具も提案しておいたらこれも需要が増え、鍛冶工房の経営改善に繋がる結果となった事でチョコラは少しホッとしていた。




