第二百三十話 サポート策を考える
うまいっ亭でリョウタ君の誕生日会を開き、今は後片付けをしている。
残った料理は全くないから使った皿を洗うだけ。
えっ、ふつうは少しくらい残るだろうって?
ははっ……ルーバやホンちゃんが居るんだよ。残るわけ無いじゃん。途中で追加の料理を作らされたくらいなんだから。
それはさて置き、俺は皿を洗いながらタージさんに相談をしていた。
「リョウタ君の事なんだけど、やっぱりジュグレさんにお願いをした方が良いのかな?」
「俺はケーキのようなキッチリ分量を量って作る繊細な物は教えられんからな……」
「やっぱりですか」
「なんだやっぱりって」
「いや、タージさんは傍目からみると雑だから…… でも食べると美味いんだよな~」
「うちは大衆食堂だからな。丁寧にしてたら客を捌けんわ」
「ですよね……」
「それでどうするつもりだ?」
「俺が出来るのはレシピと作り方を教える事は出来るけど技術までは無理だから、やはりジュグレさんに預けようかと……」
「そうだな。今のところそれが一番だな」
タージさんも俺と同じ意見のようなので近くジュグレさんに相談してみよう。その前にリョウタ君の気持ちも聞いてみないとだけど。
翌朝、俺はリョウタ君を呼んで気持ちを確認してみた。
リョウタ君は将来、村に帰って店を出す事を考えていた。ただ、今までは俺の仕事を覚えるつもりだったらしいが、神職開示の儀で示された適職が全く違うけど店を出す事が出来る職種だったことも有って一瞬戸惑ったようだったが、俺が任せろと言った言葉を信じる事にしたと言っていた。
俺はジュグレさんに手土産としてホールケーキを作って行った。もちろんクリームの塗りムラを隠す細工はしてあるけどね。
コミュレットの裏口に来ると警備員さんに「いま確認をしていますのでお待ちください」と俺が何か言う前に言われて警備員室の中に案内された。
気を利かした警備員さんがお茶を出してくれて、カップを手にした時にご案内しますと秘書の人が迎えに来てくれた。だけどせっかくだからとお茶を飲み終えるまで待ってもらってジュグレさんの執務室に通された。
「こんにちは。いつもアポなしですいません」
「構いませんよ。チョコラ殿が来られたら如何なる時でも優先するように言ってありますからね」
「ありがとうございます。でもそこまでは……」
「それで、今日はどのようなご用件でしょうか?」
「はい。実は……」
俺は持参したケーキを渡しリョウタ君の件を説明。出来たらこの店で修業をさせて欲しい事をお願いした。
「そうですか、将来は自出の村で店を出したいと。でもそのパテシェという職種は私も初めて聞きましたが、そうですか…… デザート作りに特化した料理人とは面白いですね」
「神父様も初めて聞く職種だと言っていました」
「わかりました。リョウタ君が希望するのであれば別館の方で仕事を覚えてもらいます。それで良いでしょうか?」
「ありがとうございます」
「それで、チョコラ殿はレシピと作り方は教えられると言いましたよね?」
「はい……」
「ぜひともそれを店の者たちにも伝授してくれませんか?」
「えっ?」
まさかそう来るとは思ってなかった。タージさんへ月一で新作?レシピを渡す事になっているからそれも考えると結構厳しいかも……と戸惑っていると執事の方が俺が持ってきたケーキとお茶を一緒に持ってきてくれた。
「これは?」
「はい。先ほどチョコラ殿から頂いたホールケーキと言うものです」
「ホールケーキですか……。 この丸い形はどのようにして?」
「これは丸い型を作ってもらって焼いたんです」
「ほぅ~ 丸い型ね。それはどこに頼まれました?」
「えっと…… 東門の近くにあるパデット鍛冶工房です」
ジュグレさんが何やら合図をすると執事の人が下がって行った。
既に切り分けられたケーキを見ながら
「確かに、このクリームの塗り方では商品には出来ませんね」
「…………」
「いや、非難めいたことを言いまして申し訳ない。チョコラ殿は料理人では無いのですから見た目の綺麗さまで求めるのは酷でした。しかし、味はプロ並みですから驚きですよ」
もう何とでも言ってて……
「では明日にでもリョウタ君を連れてきますね」
「いえ、これから私と一緒にチョコラ殿の店に参りましょう。ケーキの型も見せてください」
本題はそっちか……
「わかりました」
そしてコミュレットの馬車に乗せてもらい俺は店へと戻ったのだった。




