第二百二十七話 リョウタ君の誕生日~前編~
今日はリョウタ君の誕生日。待ちに待った15歳の誕生日だ。
この国において15歳の誕生日は特別だ。なぜかと言うと適職付与の儀を受ける事が出来るからだ。この儀を受けるという事は成人を迎えたという事でもあり、その子のこれからの人生を左右すると言っても過言ではないからだ。
俺の時は…… そう、忘れられていたのだ。(16話参照)
だからリョウタ君にはちゃんと受けさせてやりたい。って、俺の方がいまから楽しみだよ。
それより、今日の俺は朝から忙しい。頼んでいた物が出来上がって来る。それはケーキの丸形だ。
本当は一つ有れば良いのだけど鍛冶工房の都合で10個からしか受けないと言われ、しぶしぶ
だけど一つ条件を付けて頼む事にした。それはリョウタ君の誕生日に、どうしてもケーキを作ってあげたからったら……。
だって、あんな事が無かったら家族が盛大に祝ってくれていただろうからさ。一人王都に残る事にしたリョウタ君の寂しい思いを少しでも癒せたらと思うと力も入るってもんだよ。
俺は鍛冶工房が開く時間に合わせて店先へとやって来た。
「いらっしゃい。おっ、チョコラさん。出来ていますよ」
「ありがとうございます。見せてもらえますか?」
「おうよ」
店主が持ってきてくれたのは俺が頼んだ通りの物だった。
俺が頼んだものは直径が9cm3個、12cm3個、15cm2個、18cmを2個だ。共に深さは6cm。これで色々な大きさのケーキが出来る。違う大きさを組み合わせたら2段ケーキも出来るから見た目も華やかになりそうだね。
支払いを済ませ、在庫もたくさん用意しておくと良いよと店主さんに伝えるとそのまま市場へ向かい、材料を買ってうまいっ亭に……。
「タージさん。今日もオーブン貸してください」
「良いけど、何作るんだ?」
「リョウタ君の誕生日ケーキだよ」
「ほう~ 初めて聞くな。なんだその誕生日ケーキとは?」
「それはね、リョウタ君が明日15歳になるからお祝いのケーキを作ってあげるんだよ」
「そもそもケーキとは何だ?こないだのロールケーキみたいなものか?」
「スポンジの材料は同じだけど見た目が違うかな?」
「あなた、説明を聞くより出来上がりを見せてもらった方が早いでしょ」
「それもそうだな。おれも手伝うぞ」
ロールケーキを作る要領でスポンジ生地を作り、出来上がって来たばかりの型に流し込む。
今日は18センチと12cmを使う。
焼きあがったスポンジを型のまま逆さまにして冷ます。
この間にクリームやデコレーション用のフルーツを用意しておいた。
スポンジが冷めたら型から外して横に3等分しておく。まずは18cmから。クリームとフルーツを挟みながら重ねていき、最上部はクリームを塗るだけ。このあと上にもう一段乗せるから、フルーツが邪魔になるからだ。因みに今回は一層ごとに違う種類のフルーツを挟むことにした。
土台になった18センチの上に12cmのスポンジを乗せ、同じ作業をしたら後は全体を覆うようにクリームでコーティングをしていき、飾りを施したら出来上がりだ。
『旨そうな匂いだな。食えるのか?』
相変わらず食い物の匂いには敏感なルーバがやってきたが今はダメだ。
「今は食えないよ。夜まで待って」
『そうか……』
食えないなら興味は無いとばかりにどこかに消えて行った。
それからタージさんの質問にいろいろ答えながら他の料理もついでに作らせてもらった。
うまいっ亭の夜営業が終わったらタージさんの申し出でここでリョウタ君の誕生日パーティーを開くことになった。
その前に、これから今日の一大イベント、リョウタ君を教会に連れて行かなければならない。
出来上がったケーキは冷蔵庫に入れさせてもらい、俺は店へと戻った。




